チームメンバーが増えた!
「そんなの知らないよ! こっちは転校してきたばかりなんだけど! なんであんたたちの高一の頃のネタなんか知らなきゃいけないわけ!? ちょっと、場をしらけさせないでよ! こっちは必死に馴染もうとしてるんだから!」
「みんなの名前を必死に覚えた努力をナメないでよね! 少しは気を使ってよ! 百歩譲ってよそ者だとしても、場が凍りついた時に全員で可哀想なものを見るような目を向けないで!」
「くっそー! くっそー! くっそー! ムカつく――っ! もう知るか、サボり! 寝る!」
ふん、その様子じゃ、何考えてるか丸わかりね。
うわぁ~、ナツキちゃんまた発狂してる~?――でしょ?
ブブー、ハズレ。
今私は、お嬢様を背負って保健室の前に立っている。さっきの叫びは中から聞こえてきたものだ。それにしても……よくぞ言った!
瑞希を背負ってさえいなければ、今すぐ中に入って相槌を打ちまくってやるところなのに!
何よ? 瑞希って呼んじゃダメ? あっちが先にナツキって呼んできたんだからね! しかも瑞希の方からそう呼べって言ってきたの。私から言い出したわけじゃないし。
「ちょっと入りづらいね」
「そうだね。でも足、すごく痛むんでしょ? 消毒しないとダメだし、やっぱり……」
バタン――!
おお~、これはなかなかインパクトのある絵面だ。
ドアを開けた女の子の目に飛び込んできたのは――なんと、メイド服の下にジャージを穿いたメイドが、貴族のお嬢様を背負っている姿だった!
「あの……こ、こんにちは? 雨宮さん」
「え? なんで私の名前を知ってるの?」
「ナツキがこっそり調べてたの」
「ちょっと待って! 瑞希さん! 誤解を招くような言い方しないでよ!」
ヤバい、雨宮さんが思いっきり警戒の表情を浮かべている。
ナツキちゃん大ピンチ!
ここで同じ転校生仲間を引かせるわけにはいかない。
「こんにちは、千鳥ナツキです。あなたと同じ転校生。とりあえず、中に入ろう?」
ここからの展開は、雨宮さんと私が協力して瑞希の足を消毒し、それをきっかけに彼女がめでたく私のチームに加わる!
……チーム? 何のチーム? 私何言ってんだろ……。
あれ? っていうか、雨宮さんは!?
どこ? 消えた?
「ねえ……私を背負ったまま他の子を探し回るメイドがどこにいるの?」
「……ああ、あはは、ご冗談がお上手ですねー」
ちょっと、早く雨宮さんを捕まえてきてよ! あれはレアキャラなんだから! 瑞希の消毒は私がやるから、早く!
……
見失った? チッ、使えぬ。こっちを見てよ、もう終わらせたから!
ちょっと瑞希に肩を強く掴まれて痛いんだけど……後で私の肩、傷になってないか見てよね。
はぁ? 可愛い女の子は舌打ちしちゃダメ?
チッ、何よ、あんた相手に舌打ちしちゃいけないわけ? 文句ある?
「ナツキ、ありがとう」
「大丈夫大丈夫。やっぱり今日の午後、委員長にこれ以上続けるのはやめようって言った方がいいね。私たちも普通のやつ撮ろうよ。瑞希は親切で熱心な人って設定で、転校生の私に学校を案内してくれるとかで十分じゃん」
「……言ったところで、聞き入れてもらえるかどうか。こうやって演じるって決めた人が大半だし、嫌がってるのは私たちくらいだから」
「瑞希の足がこんな状態じゃ、演じたくても無理でしょ? こういう怪我とかの理由は、学校生活において最強の免罪符なんだから」
この足音は……! もしかして! 雨宮さんが気が変わって戻ってきた!?
チッ、なんだ、バカ委員長かよ。
「千鳥さん、女の子が舌打ちは感心しないな」
「してませんけどー」
「舌打ちした顔になってるよ」
「はいはい、ご立派なご指導どうもありがとうございます」
「東雲さん、ごめんなさい! 靴のサイズ、最後に確認したの僕なんだ。それなのに間違えちゃって……東雲さんに怪我をさせるなんて!」
恐らくこいつのせいってわけでもないんだろうけど、こんな風に健気に責任を背負い込もうとする姿を見たら、一部の人間は大喜びしそうね。
ははっ、醜悪。
「大丈夫よ。きっと誰かが確認し間違えただけだから」
はぁ、瑞希は本気で追及するつもりはないみたいね。その足でこれ以上撮影なんて続けられるわけないのに。仕方ない、一日一善といきますか。
「ねえ、そもそもこの企画を言い出したのは誰――」
「ナツキ! もういいから」
「でもさあ……」
少しは空気読めよな……委員長。っておい、なんでさっきからその衣装を見てるの? あんた……まさか。
「東雲さんが撮れないなら、僕がやります!」
「あんたのメイドになんて絶対なるか!」
「ナツキは私のメイドよ!」
「はい!?」
だめだ、止められない! この委員長、本気で女装する気満々だよ。仕事熱心なんだか、そっちの趣味があるんだかどっちなんだよ。
しかもそれ、瑞希がさっきまで着てた衣装でしょ? 男なんかに着せられるわけ――え? 入り口を見ろ?
あ、雨宮さん。さっきよりもさらに引きつった顔をしてる……。なんで早く教えてくれないのよ!
「あ……雨宮さん」
「こ……この男、怪我人に手を出そうとしてるの? け、獣……」
「ぷっ」
「え? え? 僕はただ手伝おうと……」
バカでケダモノな委員長……新属性獲得じゃん。ハハハハ! 雨宮さん、なかなかわかってるじゃん!
「そういうことだったんだ……あの『青春ドキュメンタリー』の撮影ね。てっきりコスプレかと思っちゃった。……それにしても、お嬢様とメイドってぶっ飛びすぎじゃない?」
やっとまともな人間が現れた。
「東雲さん、これ私が持ってきた塗り薬」
「ありがとう、雨宮さん」
おお! しかもいい人だ。
「委員長、見た? 他のクラスの人から見ても異常なんだって。やっぱり普通が一番だって」
「そうかなぁ……でもお嬢様とメイドの支持率、結構高いんだよ?」
「それはただ面白がって野次馬根性出してるだけでしょ……」
だめだ、この男に正論は通じない。
「いい? 現に瑞希の足は怪我してるし、他のクラスの人にもドン引きされてる。このままじゃ撮影スケジュールも遅れるよ? 最悪、A組だけ最後まで終わらないかもね?」
「な、何だって! それは困る!」
「でしょ? 困るよね。だから配役を代えるか、瑞希の足が治るまで大人しく普通の学校生活を撮るかの二択!」
「代役なんていらないわ。ナツキ、私たちで撮ろう」
「まあ、瑞希の足が治るなら、私はどっちでもいいけどね」
撮影の件はこれで大体片付いた。ここからはようやく同類と仲良くなる時間! よし、まずは邪魔な委員長を追い出して、ここからは女子タイムだ!
「こんにちは! 転校生仲間! どう、私のチームに入らない?」
「千鳥さんも転校生だったんだ? 奇遇だね! ……チーム?」
「コホン、なんでもない。辛いでしょ! 転校生ライフ! その笑顔、作り笑いだってことくらいお見通しなんだから!」
「え?」
あ、やべ。口が滑った。
「千鳥さん……本当に私のこと、こっそり調べてたの?」
「ち、違うのよ――っ!」
うわあああ、今度こそ本当に逃げられた! ショック!
ほっといて、アニメお決まりの絶望ポーズで、しばらく床に両手をついて凹ませて。
「ナツキ、おいで。午後の授業はサボって、ずっとここで横になってましょ」
「本当? 万が一先生に見つかったら……」
ああ、そうだった。学校の保健室には永遠に先生が来ないんだったわ。この世界のルールをすっかり忘れてた。
「いいよ、ちょうど私も疲れてたし」
でも、女子二人がこんな至近距離で横になるのってどうなの? ちょっと……変な雰囲気になってない?
は? みんなこういうのを期待してるって? またそれ!? 意味がわからない、気持ち悪っ!
『保健室でまったりと横たわるナツキと瑞希。しかし二人は知る由もなかった。実は、この保健室の小柄で人見知りな先生が、すぐ横のロッカーに隠れる羽目になっていることを……』
おい、この世界に私のモノローグ以外のナレーションはいらないの。なんで勝手に出てきてんのよ?
『痛っ! ナツキちゃん、女の子が人を叩いちゃダメだよぉ……』
うるさい! とっとと消え失せろ!




