お嬢様と見知らぬ新人メイド
「どうぞ、瑞希お嬢様」
「ありがとう、ナツキ」
あのさ……その「美少女&転校生」コンビって、こういう意味だったわけ?
なんで私がメイド服着てんのよ!?
ちょっと――そこ笑わない! 見せたくて見せてるんじゃないんだからね! むしろ役得なんだからありがたく思いなさいよ!
一体どういう状況よ、これ。
高校で、お嬢様とメイド、そしてカニ歩きをしながらドアップでカメラを回してくる委員長。
帰りたい……実家に帰りたい……。
「ナツキ、中庭で食事にしましょうか」
「かしこまりました、瑞希お嬢様」
ていうか、東雲さんに初めて名前を呼ばれたのがこんな形なんて、嫌だよ……
なんでも、元々は普通の撮影だったらしいのに、委員長が誰かの入れ知恵を真に受けて「お嬢様&メイド」コンビに変更したらしい。
今や校内で制服を着てないのは私たち二人だけ。私のメイド姿も十分アレだけど、東雲さんのヨーロッパ貴族風のドレス姿はさらに……。
まあ、私は端から操り人形に徹するつもりだったし。どうせ誰も私のことなんて知らないから、こういうピエロ役を押しつけられても痛くも痒くもないんだけどさ。
なんで東雲さんまでこれを受け入れたの? 確かに彼女はめちゃくちゃ美人だけど、いくら何でもこの浮いたコスプレはアウトでしょ。
「瑞希お嬢様、お食事をどうぞ」
「ありがとう。ナツキも一緒に食べましょう」
……
「ねえ委員長。この格好でお弁当を食べるのって、絵面的にどうなのよ?」
「食事まで高級品を用意するのは難しかったんだ。ここは妥協してくれ、千鳥さん」
メシ食うシーンはカットしろよ、このバカ!
でも、東雲さんが涼しい顔でお弁当を食べてるから、これ以上は文句も言いにくい。
疲れた……。
やっと午前の撮影が終わった……。これ以上続いたら、委員長のツラに右ストレートを叩き込んでるところだった。
「転校生パートナーさん、着替えに行こっか」
「うん」
廊下を歩いていると、案の定、周囲から奇妙な視線が突き刺さる。
「見て見てー」
「あれ、A組の東雲じゃん? なにあの格好」
「超ウケんだけど」
「しっ、声デカいって」
うわぁ……女子グループに笑われてるよ。お前らの顔、全員覚えたからな。いつか私がこの学校を支配したら、全員下僕にしてやる。
気づいた? 陰口のターゲット、ほぼ東雲さんなんだよね。モブキャラの私はおこぼれ程度で済んでる。
やっぱり主役ってのは、それなりのリスクを背負わなきゃいけないんだなぁ。
「あのメイド、誰?」
おい、やめろ。
「転校生なんだって」
「転校生メイド、か……」
勝手に新しい属性を開発すんじゃねえ!
地獄のランウェイを通り抜け、ようやく更衣室にたどり着いた。
午前中ずっと見世物用のピエロをやらされたせいで、もう着替える体力すら残ってない。無理、ちょっと休ませて。
おお〜この感触……! ただのベンチのくせに、五つ星ホテルの最高級ベッド並みの寝心地!
もうダメ。ねえ、いっそあんたが私の代わりにメイドやってよ。お礼に、一つだけ言うこと聞いてあげるからさ〜。
はぁ!? 何でも言うこと聞くわけないでしょ! この変態!
あれ? 東雲さんも着替えてない? え? こっちに来る?
え? なに? なになに?
こ、これって……まさか、キス!? お嬢様とメイドの禁断の恋!?
ちょっと待って……まだ早すぎるって……! 未成年の読者に刺激が強すぎるよ!
――なんて展開になるはずもなく、東雲さんは私と同じように横になっただけだった。
「お疲れ、転校生パートナーさん」
「いや、東雲さんこそお疲れ様。私のはまだ着心地いいし、ヒールでもないし」
「みんな、笑ってたね」
「……そうだね」
やっぱり東雲さんも気づいてたか。いや、あいつらが分かりやすすぎたんだけどさ。
他のクラスは真っ当な『青春ドキュメンタリー』って感じで、たまにカップルを冷やかしたりしてる。
その眩しすぎる青春の光に浄化されそうになるんだけど、なんでうちのクラスだけこんなことになってんの?
そろそろ時間だし、着替えて戻るか。
うん? なに? あんた、まだ出ていかないの? 私たちの着替えシーンでも期待してるわけ?
通報するよ? ほら、出てった出てった!
「東雲のあの格好、マジでウケんだけど! あははは!」
「それそれ! もう他校にも写真回ってんし。『桜高の女神』サマがさぁ〜、ひゃははは!」
感じの悪い声だなぁ。ねえ、あんた出ていくついでにあいつらボコボコにしてきて。
やっぱりこの企画、最初から悪意混じりだったんじゃないの? 今の陰口も、午前中の撮影も、よく東雲さんは平気な顔でいられるな。
これぞ本物のクール系美少女ってやつ? やば……ちょっと憧れちゃいそう!
「転校生パートナーさん、午後の授業サボっちゃおっか。このままここで寝てよっ?」
バッドガールに走るクール系美少女……。
「え、なんで?」
「私……ちょっと疲れちゃったみたい。足、ちょっと痛くてさ」
「ヒール、慣れてない?」
「サイズ合わなくて、ちょっと窮屈なんだよね」
「サイズって、東雲さんが自分で言ったんじゃないのか?」
「うん。でも、私の言ったサイズは合ってるはずなんだけどな」
だから東雲さん、着替えずにいたのか。はぁ、もうしょうがないなぁ。メイドの役目を果たすとしますか。
「瑞希お嬢様、私がお脱がせしますね」
勘違いしないでよね! 単なる一日の善行なんだから!
「痛っ……!」
「ごめんっ!」
ほんとに。ヒールを脱がそうとしてみたけど、めちゃくちゃきつい。
ちょっと待って、これ「ちょっと痛い」レベルじゃないでしょ、血が滲んでるじゃない! あのクソども……やっぱり、この企画に便乗して誰かが嫌がらせを――
……って、待て待て! これって学園コメディだよ? このドロドロした心理描写はマズいでしょ。おい、何書き殴ってやがる?
『あ、ナツキちゃんごめん。間違えちゃった、書き直すね~』
ほんとに。ヒールを脱がそうとしてみたけど、めちゃくちゃきつい。
ちょっと待って、これ「ちょっと痛い」レベルじゃないでしょ、血が滲んでるじゃない! これじゃ歩くのも無理だよ。
「お嬢様、どうぞ」
「え? おんぶしてくれるの?」
「メイドですからね。ほら、保健室行きますよ」
「いいの?」
「どうぞー」
それにしてもこの胸のサイズ感……くっ、顔があんなに可愛いのにその発育はズルいでしょ! 許すまじヒロイン補正……!
っていうか、あんたには「出ていけ」って言ったよね? なんで最後まで居座ってんの?
はぁ? みんな着替えシーンを待ってるから? 意味がわからない! 気持ち悪っ!
ほら、そこどいて。東雲さんをおんぶして保健室行くんだから。
「ごめんね、メイドさん」
「はいはい、お安い御用ですよー」
『青春ドキュメンタリー』ねぇ、はは。まあ、これも一応は青春か。そういう意味では間違ってないのかも。
「ありがとう……ナツキ」
「えっ?」
ちょっと待って……呼び捨て!? 不意打ちやめてよ! しかも耳元で囁くとか! こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃん!
「どういたしまして……み、瑞希さん」
「『さん』はいらない」
「み……瑞希」
うぅ……なんで私こんなに従順なの? 本当にメイドになっちゃったじゃん!




