モブキャラは、有無を言わせず
ねえ知ってる? 実は私、バッドガールなんだ。
ふふん、そうは見えないでしょ?
男の子の純情を軽々と弄んで、手のひらで転がしちゃうタイプ。例えば、あそこで女子に囲まれてるA組一のイケメン、演劇部エースの滝くんとかね。
私がほんのちょちょっと本気を出せば――
「転校生ちゃーん、こっち来て来て!」
「はーい〜」
はいはい分かってます、あの子たちの方が私より何倍もオシャレなことくらい。わざわざ指摘しないでくれる?
「カメラ見て、はい、イェーイ!」
なんで転校初日から、こんな謎イベントに巻き込まれてるわけ?
『青春ドキュメンタリー』? だったらまず、その輝かしい青春ってやつを私に寄越しなさいよ!
名前すら覚えてくれない女子たちの引き立て役として、一緒に写真に写るんじゃなくてさ。
「転校生ちゃん、可愛いー」
「えー? 全然だよー。北原さんこそ超可愛い!」
「知ってる〜!」
ちょっと待って?
「知ってる」?
ストレートすぎない!? そこは少し謙遜するところでしょ、おい!
東雲さんと写真を撮りたがる人もいっぱいいる。ってことは、「引き立て役」っていう立場においては、私=東雲ってことにならない?
さすがは私、あっという間にクラスでトップクラスに可愛い女子と同じ土俵に立っちゃった。
まあ……東雲さんと撮るのは自分のスクールカーストの高さを示すためで、私と撮るのは自分たちの引き立て役にするため……ってコト?
あはは……。
ちょっと、あんたまで知ってるとか言ってない? 怒るよ、私?
「お疲れ、転校生さん」
「東雲さんこそお疲れさま。東雲さんは今回のメイン被写体だもんね?」
ちなみに私は背景。
「うん……疲れた。交代する?」
それじゃ『青春ドキュメンタリー』じゃなくて、『傷痕ドキュメンタリー』になっちゃう。
「無理無理! 東雲さんだからこそ映えるんだよ」
あ、バカ委員長がこっち来た。
「白鳥さん、ちょっといいかな?」
「え~、白鳥さん? 誰? 探してきてあげようか?」
「白鳥……って、君じゃないの?」
こいつ……! 仮に私が男のコを弄ぶ悪い女だとしても、こいつだけは絶対にターゲット外だわ!
「はいはい、私が白鳥ですよー。で、何の用ですか、神山くん?」
「神前だけど」
「どうも、神前くん。私は、ち・ど・り!」
「ち、どり……?」
このバカの呆けっぷりに、あの東雲さんすら思わず吹き出してるし。
「それはないよ、委員長! さすがに名前を間違えるのは失礼だって!」
東雲さん、あんたも私のこと一度も名前で呼んでないからね?
って、嘘でしょ? 神前くん、本当に今初めて気づいたっぽい。っていうか、顔真っ赤になってるんだけど!
うわぁ……純情ボーイだ……。
「本当にごめん! 千鳥さん! 名前を間違えるなんて、委員長失格だ!」
「そこまで深刻にならなくても大丈夫だって。全然気にしてないから。で、委員長の用事って何?」
あんたはもう詰んだからね。私、相当根に持つタイプだから。卒業するまでこのネタ擦り続けてやる。
「実は今回のドキュメンタリー撮影なんだけど、千鳥さんにもメインの被写体になってもらいたいんだ。せっかくの転校生なんだし」
転校生かよ!
委員長、転校生にどんなファンタジー抱いてんの?
「やっぱりやめとこうよ。そういうのは、東雲さんみたいな子が一番お似合いだって」
「そうそう、東雲とセットなんだよ。美少女と転校生のコンビなら、他のクラスより絶対映えるから」
「……」
あの、その「美少女」って言葉、ついでに私の形容詞としても使ってくれません?
「え? 私と転校生さんで?」
「うん、ついでに校内を案内してあげてよ」
やめて! 嫌だ! クール系美少女と強制バインドされるのなんてお断りなんですけど! 泣いちゃうよ!?
まずい、東雲さんが意外と乗り気っぽい。ほら、初めてこんなに真っ直ぐ私を見てる……あれは獲物を見つけた時の目だ。
いや、おもちゃを見つけた時の目だ。
私は簡単に妥協したりしないからね!
「いいよ、面白そう。転校生さんは?」
絶対に、屈しない――!
「……東雲さんがいいなら、喜んで……」
「それじゃ、よろしくね」
「はい……」
うぅ、なんで助け舟を出してくれないの? とりあえずこのバカ委員長をどこかへ連れ去ってよ。
クラスの可愛い女の子の話でも振れば、ホイホイ付いていくでしょ。あんたたちの主食なんだから。
やっぱりモブキャラには選択の人権すらないんだ……。
でも幸い――秘策がある。
完全に操り人形に徹すればいいのだ。撮影中は、向こうの言う通りに動くだけ。相手の思い通りの絵を撮らせてあげれば、コミュニケーションにかかるコストをゼロにできる。
しかも、後で問題が起きても私には一切関係なーし! ふふふ……。
まさにバッドガール! ガオーッ!
おっ、入り口! 付いてきて!
見て、あそこで友達と楽しそうに談笑してる女子。私には分かる。あの笑顔は嘘、完全にフェイクだね。
こっそり裏を取ったんだけど、名前は雨宮真夏。
私と同じ、転校生。
私よりほんの一ヶ月半早く転校してきただけなのに、もうすっかり馴染んだ顔をしてる……。
「ストーカー?」
「違うよ。私はただ物陰から、興味のあるものをそっと……って、ひゃあ!? 東雲さん!?」
「誰見てるの?」
「べ、別に……誰も」
あれ? 東雲さん、なんで外に出てきたの? 他の女子たちとお喋りしてたんじゃなかったっけ。
っていうか、私の鼻、もう香水に麻痺しちゃったかも……私のはまだ匂うかな? ほら、嗅いでみて、分かる?
「放課後から撮影始めるから。よろしくね、転校生パートナーさん」
「よろしくおねがいします……」
東雲さんは一人で歩いていってしまった。席の方を見やると、もう私たちの周りには誰も残っていない。
面白い。
とはいえ『青春ドキュメンタリー』の主人公(?)か。これで『死ぬまでにやりたいことリスト』から一つ消化できたってことでいいかな。




