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はいはい、名前は転校生ですー

 あんたが何考えてるか、分かってるよ

 中のクラスメイトたちは背筋をピンと伸ばして、期待に満ちた目で入り口を凝視してる。特に男子。転校生が女子だって、もうみんな知ってるからね。

 ああっ! 謎の美少女転校生の登場だー!ってやつ。

 そんで、私が潤んだ瞳で教室に入り、一瞬でクラス中をメロメロにする。そこから薔薇色の高校生活が――


「千鳥さん、どうぞ」


「はーい」


 先生に呼ばれたから、とりあえず入るね。っていうか、私が口で説明するより、一緒に直接見た方が早いし。

 ほら、見てよ。どこに「注目の的」って感じがあるわけ? みんな、動物園の珍獣でも見るような目をしてるじゃない。

 あ、こっちを一瞬見ただけで、すぐに自分の作業に戻った人がたくさん。

 普通にショック!

 とりあえず、簡単な自己紹介から始めよう。まずは黒板に自分の名前を書く。


「はじめまして、千鳥ナツキ(ちどりナツキ)です。七陽高校から転校してきました。趣味は……」


 そう、自分の名前を書いた。

 だけど、これがこの学校での私の本当の名前になることはない。だって、覚える人なんてほとんどいないからね。

 すぐに、私の「本当の名前」が広まることになる。


「転校生」


 それが、ここでの私の「真名」になるのだ。

 おや? 私の左斜め前にいる男子を見てよ。あの表情、一目で学級委員長って分かるよね。

 今日の夜のジュース、賭けてみない?

 順当にいけば、これからかなりの長期間、一番会話を交わすことになるキャラクターのはずだし。

 自己紹介はそろそろ終わりかな。


「これから、よろしくお願いします」


 しまった。用意された席が、よりによってすごくおしゃれな女子の隣だった。

 彼女、私が教室に入った瞬間から、一度も顔を上げてこっちを見てないんだけど。

 こういうタイプが一番面倒臭いんだよね。挨拶したらしたで下手に出てるみたいだし、挨拶しなかったらしなかったで「常識のない子」とか言われるし。

 話を教室に入る前に戻そう。そんで、私の薔薇色の高校生活が華々しく幕を開ける!

 ――って、なるわけないじゃん!

 転校生にそんな特権、あるわけないでしょ!

 突然転校してきて、何故かクラスの「一見目立たないけど実はストーリーの中心」みたいな男子の隣の席になって、そこからなし崩し的に恋が始まる?

 あるわけないでしょ、そんなの!

 現実の私を見てよ。一番難攻不落そうな子の隣に座ってるじゃない。

 あ、今チラッと見られた。

「いかにも地方から来ましたって顔してるわね」とか思われてるに違いない。

 転校してきたばかりで右も左も分からず、とっくに出来上がった人間関係の網の中に情け容赦なく放り込まれる。

 その上、自分の本当の名前さえ失って、押し付けられた「転校生」っていうラベルだけで呼ばれる。

 さらには先生の授業スタイルや進度にも合わせなきゃいけない……できることなら、こんな「特別な転校生」なんて死んでもごめんだよ!


「よろしくね、転校生さん」


 ほら、言った通りでしょ。


「こんにちは、千鳥ナツキです。隣の席同士、よろしくね」


 名前アピール! へへん、ささやかな抵抗を試みてみた。


東雲瑞希(しののめみずき)。よろしく、転校生さん」


 ううっ、やっぱりダメだった! もう諦めよう……


 それにしても、まさか東雲さんの方から先に声をかけてくるなんて。私の観察眼、狂ってた?

 でも、教室に入った時から本当にこっちを見てなかったんだけどな……

 あ、授業が始まる。そうそう、ここも悲惨なところ!

 どの教科の先生も、まるで新大陸でも発見したかのように興味津々で言うのだ。――「新顔がいるな? ちょっと立って顔を見せてくれ」って。

 意味不明なんですけど!

 あんたの学校もそうだった? あ、聞いたって無駄か。あんたは転校生じゃないもんね。

 案の定、休み時間になると、いかにもおしゃれな女子たちが東雲さんの周りに集まっておしゃべりを始めた。

 香水の匂い、きつっ! ねえ、漂ってくるの分かる?

 ちょっぴり見栄を張ってつけてきた私の安物香水の匂いなんて、跡形もなくかき消されちゃったよ!

 きっと高級香水の放つオーラに恐れおののいて、引きこもっちゃったんだ。


「転校生さんって、どこから転校してきたの?」


 おいおい、それ自己紹介の最初の一言目で言ったよね?


「七陽高校だよ。他の県にあるんだけど」


「聞いたことないなぁ……。転校生さんの地元でも、こういうの流行ってた?」


 実は、私には達人の教えがある。

 たった三つのフレーズさえあれば、初対面のどんな女子高生とも会話が成立するのだ。


「わかるー!」、「あ! それかわいい!」、「ウケるー!」


 ほら、実演して見せるからよく見てて。


「あ! それかわいい!」


「でしょ〜!」


 大成功!

 ちなみに、男子高生用のバージョンもある。


「へえ、本当?」、「ドジだね、あたし」、「面白っー」


 安心しなよ、あんたには使わないから。

 あ、来た来た、あの男子! 賭けのこと、忘れないでね。


「白鳥さん、こんにちは」


 はい、千鳥です。


「こんにちは~」


「僕は神前朧(かみさきおぼろ)。2年A組の委員長。白鳥さんは転校してきたばかりだし、分からないことがあれば何でも聞いてね」


 はい、千鳥です。


 私の勝ち〜。今日の夜、ジュース奢ってよね?


「神前くん、ありがとう!」


 は? 何を言った? タグはラブコメ?

 ふざけないでよ! ラブコメ展開なんてないから! 期待しないでよね!

 っていうか、私の名前を間違ったこのバカがヒーローだなんて、いつ言ったわけ?!

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