第141話 恐怖を斬る者
黒い刃が、ミユウの白い翼を裂いた。
声を出すより先に、喉の奥が焼け、握った剣の柄が掌の皮を削った。
迷宮の床に刻まれたルーン文字が青白く瞬き、石壁の奥で誰かの足音が何重にも跳ね返る。目の前でミユウが膝から崩れ、銀髪が血のついた羽に絡み、俺に向けられた唇がわずかに動いた。
あなた、と聞こえた瞬間、背後でアインの小さな靴音が止まった。
「パパ……?」
振り返るな。
そう思ったのに、首が動いた。石の通路の向こうで、アインがジュリアの手を握ったまま立っていた。
二人の足元に、黒い水が広がっている。水ではなかった。
迷宮の天井から落ちる青い光を吸い込みながら、影が床を這い、アインの足首に巻きつき、ジュリアの白い小さな羽を汚していく。
「パパ、こっち、きて……」
ジュリアの声が、石壁に触れて細く割れた。
俺は一歩踏み出した。靴底が床に張りつき、足首まで冷えが上がる。剣を握る右手が震え、左手で胸元の服を掴んだ。
息を吸うたび、鉄の匂いと湿った石の匂いが肺に入り、こめかみの奥でルーン文字の光が点滅する。
ミユウが倒れている。
アインとジュリアが沈んでいく。
俺の剣は、どちらにも届かない。
影の中から、細長い腕が何本も伸びた。指先は骨のように白く、アインの肩に触れ、ジュリアの髪を撫でるように絡む。
アインは歯を食いしばり、ジュリアを自分の背中に隠そうとした。小さな体が前へ出る。膝が震えているのに、目だけは俺を見ている。
「ぼくが、ジュリアをまもる」
「おにぃちゃん……」
ジュリアがアインの服を掴んだ。
俺の胸の奥で、何かが軋んだ。剣を振り上げようとして、腕が上がらない。肩に鉛を流し込まれたみたいに重く、指先が痺れ、柄の感触だけがやけに鮮明だった。
ミユウの羽が床を擦った。
「あなた」
顔を向けると、ミユウが血に濡れた指で俺を示していた。唇の端から赤い筋が落ちる。けれど、その瞳だけは濁っていない。俺の足元ではなく、剣でもなく、俺の胸の奥を射抜くように見ている。
「斬って」
その一言で、迷宮の音が消えた。
違う。
ここにミユウはいない。
ここにアインもジュリアもいない。
俺は歯を噛みしめ、舌の裏に血の味を広げながら、目の前のミユウを見た。
倒れ方が違う。ミユウなら、膝から崩れる前に翼で体を支える。アインなら、俺を呼ぶ前にジュリアの手をもっと強く握る。ジュリアなら、泣きながらでも、アインの背中に隠れたまま俺の服の裾を探す。
床に刻まれたルーン文字が、また瞬いた。
読み間違えた文字が、石の隙間で青く燃えている。
喪失を見せる文字。
足を止めるための文字。
剣を鈍らせるための文字。
俺は息を吐き、剣の柄を握り直した。掌の皮が裂け、ぬめった感触が指の間に広がる。痛みがある。
なら、俺はまだ立っている。膝の震えも、胸を圧迫する空気も、喉に絡む鉄の匂いも、全部ここにある。
幻に持っていかれていない。
俺はここにいる。
「悪いな」
俺は剣先を床へ向けた。黒い影がアインとジュリアを包む速度を上げ、ミユウの姿をしたものが俺へ手を伸ばす。指先が俺の頬に触れようとした瞬間、俺はその手首を見た。
ミユウの手じゃない。
傷跡がない。
あの航海で、嵐の夜に俺を支えた時、木片でつけた細い傷跡がない。
俺は笑わなかった。叫びもしなかった。ただ、足の裏に体重を落とし、腰を沈め、剣を引いた。迷宮の床が低く唸る。壁のルーン文字が一斉に光り、黒い水の中から無数の目が開く。
「俺の家族を、そんな雑な幻で使うな」
剣が青く鳴った。
アストラルフレイムの刃に、床のルーン光が吸い込まれていく。
白い刃の中心に青い筋が走り、柄から肘、肩、胸へと熱が逆流した。痛みで骨が鳴る。けれど、腕は上がった。
影の中のアインが俺を見た。
「パパ、たすけて」
声は同じだった。
けれど、その目にアインの光がなかった。
本物のアインなら、震えながらでも前へ出る。俺の背中を見て、いつか自分も剣を握ると勝手に決める。小さな拳を握って、転んでも立ち上がる。
こんな目で俺を縛らない。
俺は床を蹴った。
一歩目で黒い水が割れ、二歩目で壁のルーンが砕け、三歩目でミユウの姿をした影の懐へ入った。伸びてきた白い指を肘で弾き、首筋へ回り込む黒い帯を剣の腹で叩き落とす。影の腕が肩を掴み、爪が服を裂き、皮膚の上を熱い線が走った。
構わず踏み込む。
俺の剣は、人を傷つけるために握ったものじゃない。
俺の剣は、迷いを斬るためにある。
家族を守るためにある。
目の前のミユウの顔が歪んだ。銀髪が黒く染まり、白い羽が泥のように崩れる。唇が裂け、聞き慣れた声の奥から、石を擦るような音が混じった。
「あなたが、守れなかった」
刃が止まりかけた。
その一瞬を、迷宮は逃さなかった。床から伸びた影が俺の足を縛り、壁のルーンが赤く変わる。
胸の奥に、過去の映像が釘のように打ち込まれた。船室。嵐。ミユウの冷えた指。アインとジュリアの寝息。守りたいものが増えるたび、失った時の形だけが先に浮かぶ。
息が詰まった。
膝が沈む。
剣先が床を擦った。
その時、どこからか小さな声が聞こえた。
「ぼくも、パパみたいにつよくなる」
幻の中ではない。
記憶の中の、温かい朝の声だった。甲板の上で木剣を握り、何度も空振りして、手のひらを赤くしながら俺を見上げたアインの声。隣でジュリアが小さな手を叩き、ミユウが銀髪を風に揺らしながら微笑んでいた。
あの日、俺はアインの頭を撫でた。
強くなるっていうのは、斬ることだけじゃない。
逃げずに立つことだ。
そう言った自分の声が、胸の奥で刃になった。
俺は左足を踏みしめた。影が足首に食い込み、皮膚の下まで冷たさが入ってくる。右手だけではなく、左手も柄に添えた。掌の傷が重なり、ぬるい血が鍔を濡らす。
逃げない。
止まらない。
奪わせない。
俺は息を吸い、刃を真っ直ぐ構えた。
「守れなかった未来を見せるなら、先に現在の俺を倒してからにしろ」
迷宮が吠えた。
壁が歪み、天井から石粉が落ち、黒い水が柱のように立ち上がる。影の中から、ミユウ、アイン、ジュリアの姿が次々と現れた。泣く顔。倒れる顔。手を伸ばす顔。俺の足を止めるためだけに並べられた顔。
俺は全部見た。
目を逸らさずに見た。
その上で、一番奥にあるルーンの核を見つけた。
床の中央、砕けた文字の下。青いはずの光が黒く脈打ち、俺の視線に反応して薄く震えた。あれが幻の芯だ。家族の姿を被り、俺の胸の弱い場所に爪を立てていた、迷宮の心臓。
剣を振るには距離がある。
影の数は増え続けている。
普通なら届かない。
だから、普通に斬るのをやめた。
俺は剣を下段に落とし、体の軸を沈めた。足元の黒い水が膝まで跳ねる。影の手が肩、腕、腰に絡み、俺の動きを奪おうとする。だが、絡むならそれでいい。引っ張られる力ごと利用する。
右足を半歩引き、背中の筋肉を締め、影に引かれる勢いに合わせて体を捻った。
刃が走る。
目の前のミユウが裂けた。アインの幻が割れた。ジュリアの幻が薄紙みたいに千切れた。声が一斉に砕け、迷宮の壁へ叩きつけられる。
けれど、核にはまだ届かない。
黒いルーンが脈打つ。俺を嘲るように、奥へ沈んでいく。
逃がすか。
俺は床を蹴った。影の腕が背中に食い込み、服が破れ、爪が肉を掠める。痛みが背骨の横を走った。だが、痛みは俺を止めない。むしろ、ここが現実だと刻みつける楔になる。
剣を逆手に持ち替え、俺はそのまま黒い水の中へ突っ込んだ。
足元が消えた。
体が落ちる。
暗闇の中で、無数の手が俺の体を掴んだ。胸、喉、顎、瞼。開いた口に冷たい泥が入り、息が詰まる。剣の重みだけが右手に残る。上も下もわからない。体の感覚が削られていく。
その闇の中で、ミユウの声が聞こえた。
「あなたは、強い」
今度は幻ではなかった。
俺が勝手に覚えている、ミユウの声だ。
弱いところを見せた夜も、剣を落とした朝も、何度もその声が俺を立たせた。俺が自分を疑った時、ミユウだけは俺の背中を押した。言葉だけじゃない。指先で、視線で、翼で、隣に立つ姿で。
俺は歯を食いしばり、喉に入り込んだ泥を吐いた。肺が焼ける。視界の端で青い光が瞬いた。核だ。闇の底で、黒いルーンが脈を打っている。
右手を伸ばした。
届かない。
影が手首を掴む。
俺は左手で影を掴み返した。
冷たい。ぬめる。人の手の形をしているのに、骨も血もない。握り潰すように力を込めると、影が悲鳴のような振動を出した。その振動を支点に、俺は体を引き寄せる。肩が外れそうになる。腕の筋が軋む。けれど、剣先が核へ近づく。
あと少し。
黒いルーンが最後の幻を出した。
目の前に、俺自身が立っていた。
剣を落とし、膝をつき、空っぽの目でこちらを見ている俺。背後には誰もいない。ミユウも、アインも、ジュリアもいない。床には折れた羽と、小さな木剣と、ピンクのリボンだけが落ちている。
その俺が、口を開いた。
「どうせ、いつか失う」
俺は剣を引いた。
影が一斉に勝ち誇ったように揺れた。
違う。
斬るために引いたんだ。
俺は胸の奥まで息を吸い、剣を両手で握り、闇の底に足をつけた。床なんてないはずなのに、確かに踏めた。俺の中にあるものが、足場になった。
ミユウの手。
アインの木剣。
ジュリアの小さな声。
船室の灯り。
朝の潮風。
全部、奪われていない。
失う未来を見せられたくらいで、今あるものまで渡してたまるか。
「いつか、じゃない」
俺は刃を振り上げた。
「今、守る」
青い光が爆ぜた。
アストラルフレイムが闇の底で弧を描き、黒いルーンの核を真っ二つに断ち割った。音はなかった。
代わりに、指先から肩まで一気に熱が抜け、視界を覆っていた黒がガラスのようにひび割れる。
ミユウの幻が消えた。
アインの幻が消えた。
ジュリアの幻が消えた。
俺自身の幻だけが、最後までそこに残った。剣を持たない俺が、割れた視界の向こうで俺を見ている。俺はその胸に剣先を向けた。
「お前は、俺の影だ。消えなくていい」
影の俺の瞳が揺れた。
「だが、前には立つな」
剣を振った。
影の俺は、青い粒子になって散った。
次の瞬間、体が床へ叩きつけられた。肺から息が抜け、石の冷たさが頬に張りつく。右手はまだ剣を握っていた。指が開かない。掌の傷に柄の模様が食い込み、血が石の上へ細く広がる。
迷宮の音が戻ってきた。
水滴の落ちる音。
石壁の奥を通る風。
遠くで何かが崩れる低い響き。
俺は腕に力を入れ、上体を起こした。体中が重い。背中の傷が服に張りつき、肩を動かすたびに皮膚が引かれる。
けれど、目の前に黒い水はない。床に刻まれていたルーン文字は砕け、青い光だけが粉みたいに残っている。
斬った。
俺は、斬った。
喉の奥から熱い息が漏れた。笑いでも、叫びでもない。ただ、体の奥に溜まっていたものが、やっと外へ出た。
「パパ!」
通路の向こうから、アインの声が飛んできた。
俺は顔を上げた。ミユウがいた。白い翼を広げ、アインとジュリアを背に庇いながら、こちらへ駆けてくる。幻ではない。羽に血はない。銀髪は泥に濡れていない。瞳の奥に、俺の知っている光がある。
ジュリアがミユウの服を掴みながら、俺を見て唇を震わせた。
「パパ……」
俺は立とうとした。膝が笑い、足裏が滑った。剣を支えにして、なんとか片膝をつく。ミユウが俺の前で止まり、伸ばした手を途中で止めた。俺の傷を見たのか、触れれば崩れるものを見るみたいに、指先だけが空中で震えた。
「あなた」
その声で、さっきの幻が完全に砕けた。
俺は剣から手を離し、ミユウの手首を掴んだ。温かい。脈がある。指先に触れた肌の熱だけで、胸の奥に刺さっていた棘が一本ずつ抜けていく。
「本物だな」
「ええ」
ミユウは俺の手を両手で包み、膝をついた。白い翼が俺の肩の後ろへ回り、迷宮の冷たい風を遮る。
アインが隣に駆け寄り、俺の剣と砕けたルーンを交互に見た。目が大きく開いている。息を弾ませ、拳をぎゅっと握っている。
「パパ、いまの、すごかった。ほんとうに、すごかった」
俺はアインを見た。小さな頬に石粉がつき、額に汗が浮いている。逃げずに見ていた顔だ。
「見てたのか」
「うん。パパ、まっくろなの、ぜんぶきった。ぼくも、パパみたいにつよくなる」
アインは胸の前で拳を握り直した。震えていた指が、今は真っ直ぐ折り込まれている。
ジュリアがその袖を小さく引いた。
「おにぃちゃん、パパ、けがしてる……」
アインの顔が変わり、すぐに俺の腕へ視線を落とした。俺は動かせる方の手で、ジュリアの頭に触れた。銀髪が指に絡む。幻の中で黒く沈んでいた髪ではない。柔らかく、少し湿っていて、迷宮の石の匂いが薄くついている。
「大丈夫だ」
言った瞬間、ミユウの眉がわずかに寄った。
まずい。大丈夫という言葉だけでは、ミユウには通じない。俺が無理をする時の声を、彼女は知っている。
ミユウは俺の手を包んだまま、傷の具合を見た。指先が服の裂け目に触れる。背中の皮膚がひりつき、俺は奥歯を噛んだ。ミユウの瞳が俺へ戻る。
「あなたは、斬ったのですね」
「ああ」
「幻だけではなく、足を止めるものごと」
俺は砕けたルーンを見た。青い粉が床の溝に積もり、風が吹くたびに細く流れていく。もう文字の形は残っていない。
「家族を使われた」
ミユウの手に力が入った。
「あなた」
「でも、雑だった」
俺は息を吐き、剣を拾い上げた。刃に黒い靄は残っていない。青い光が細く走り、やがて透明な白に戻る。
「お前なら、倒れる前に翼で支える。アインなら、呼ぶより先にジュリアを守る。ジュリアなら、アインの服を掴んで離さない」
ジュリアが、はっとしたようにアインの服を掴み直した。アインが少し胸を張る。
「ぼく、まもるよ」
「知ってる」
俺がそう言うと、アインの目がさらに強くなった。小さな体なのに、迷宮の青い光を受けて、影が少しだけ長く伸びている。
ミユウは俺を見つめていた。賞賛の言葉をすぐには出さず、俺の呼吸、指先、膝の角度を確かめるように見ている。彼女のそういうところに、何度も救われた。派手な言葉より先に、俺が立っているかを見てくれる。
「あなたは、やはり強いです」
白い翼の内側で、ミユウの声が低く響いた。
「幻に刃を向けることより、見せられたものから目を逸らさなかったことが」
俺は返事をしなかった。喉に残る泥の感触がまだある。幻のアインが俺を呼んだ声も、幻のジュリアが沈む音も、完全には消えていない。けれど、それを消し去る必要はなかった。
持ったまま進む。
剣と同じだ。重いからこそ、握り方を覚える。
迷宮の奥で、石扉が動いた。
全員の視線がそちらへ向いた。砕けたルーンの先、今まで壁にしか見えなかった場所に縦の亀裂が入り、青い光が漏れ出している。扉の表面には、さっきとは別のルーンが刻まれていた。今度は読み間違えない。古い文字の線は荒れているが、意味はわかる。
恐れを斬った者だけが進め。
俺は心の中で読み、声には出さなかった。
アインが俺の隣に立ち、ルーンを見上げた。
「パパ、なんてかいてあるの?」
「進めってことだ」
「じゃあ、いこう」
迷いのない声だった。
ジュリアがミユウの後ろから顔を出し、扉の奥の光を見た。小さな指がミユウの服を掴んでいる。けれど、足は引いていない。
「パパも、いっしょ?」
「当たり前だ」
俺は剣を肩に担ごうとして、背中の傷に引きつった。ミユウの視線が刺さる。俺は剣を下ろし、軽く握り直した。
「無茶はしない」
ミユウは何も言わず、俺の手首に布を巻いた。いつの間にか取り出した白い布だ。きつく結ばれ、傷口が圧迫される。痛みで指が跳ねたが、その圧が妙にありがたかった。
「あなたの無茶は、少しずつ基準がずれていきます」
「今のは反省してる」
「今の、は?」
アインが小さく笑い、ジュリアも口元を押さえた。迷宮の冷たい空気の中で、その短い音だけが柔らかく転がる。俺は咳払いをして、扉へ向き直った。
石扉が完全に開く。
奥には長い階段があった。下へ続いている。壁には青い炎が灯り、階段の先は濃い霧に沈んで見えない。風が下から吹き上げ、俺の傷口を冷やした。鉄と石と、かすかな花の匂い。迷宮の奥に似合わない匂いだった。
桜。
エクリプシス島の外で見た、月明かりに舞っていた花びらの匂い。
俺は一段目に足を乗せた。石がわずかに沈み、階段全体に青い線が走る。罠かと身構えたが、矢も槍も飛んでこない。代わりに、奥の霧の中で何かが光った。
青い宝玉。
まだ遠い。けれど、確かにそこにある。
アインが息を呑んだ。ジュリアの指がミユウの服をさらに強く掴む。ミユウは俺の隣に並び、翼を少しだけ広げた。
「あなた」
「ああ」
俺は剣を握り直した。
さっき斬ったばかりの幻が、胸の奥でまだ薄く疼いている。消えない。消えなくていい。あれを斬ったから、俺はここに立っている。
階段の下から、低い音が響いた。
獣の唸りにも、石の軋みにも聞こえる。霧の奥で青い光が一度消え、また灯る。その瞬間、階段の壁に刻まれた新しいルーンが浮かび上がった。
今度の文字は、警告ではなかった。
試練の名だ。
俺は読んだ瞬間、剣の柄を握る手に力を込めた。ミユウが俺の表情だけで何かを察し、アインとジュリアを背へ下げる。
「次は、何?」
アインが小声で聞いた。
俺は階段の奥を見たまま、答えた。
「斬れる相手だ」
霧の向こうで、巨大な爪が石段にかかった。青い炎が一斉に揺れ、湿った風が俺の頬の傷を撫でる。
俺は一段、下りた。
読んでくれてThanksです。不定期更新になりますが、これからもよろしくお願いします。




