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信長英雄記〜かつて第六天魔王と呼ばれた男の転生〜  作者: 揚惇命
3章 タルカ侵攻作戦

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58話 織田信長のいなくなった世界のこと

 キチョウとサブローは、天守閣に登るとどちらからとも無く抱きしめあった。


 サブロー「まさかお濃までこちらの世界に来ているとは…俺が信忠の言う通りに手勢を増やして備えておけば…本当にすまない」


 キチョウ「もう良いのです。こうしてまた殿に会えて、濃は本当に幸せですから」


 サブロー「ワシが死んでから信忠は上手く織田を取りまとめられていたか?」


 キチョウ「その話からしないとなりませんね。殿が死んで間も無くのことです。私が息子同然のように育てた信忠も二条城にて、十兵衛の魔の手にかかり…ううっ」


 サブロー「まさか、何故だ!何故、ワシが攻められている間に逃げなかったのだ信忠!」


 キチョウ「殿を助けようと僅かな手勢を率いて本能寺へと向かおうとしてそうです」


 サブロー「ワシが…不甲斐ないワシのせいで信忠まで…。息子を殺されたことを恨むべきか。流石、キンカ頭と褒めるべきか。何とも言えん感情が渦巻いている」


 キチョウ「でも、殿同様に最期まで首は渡さなかったんですよ」


 サブロー「ハハハ、そんなところまでワシに似ずともよかろう」


 キチョウ「だから十兵衛は次に私を狙おうとしました。私と無理矢理にでも婚姻すれば国をまとめられると思ったのでしょう」


 サブロー「やる時は徹底的にやる男であるからなキンカ頭は。まさか、お前までキンカ頭の手に?」


 キチョウ「いえ、私は殿が目をかけ冬を嫁がせた蒲生氏郷殿の下で匿われていました」


 サブロー「そうか鶴千代の奴が。鶴千代はワシの思った通り、良い男であったな。冬は幸せそうだったか?」


 キチョウ「はい。最終的に氏郷殿との間に一男三女を儲けましたよ。婆として、私も抱っこさせてもらいましたから」


 サブロー「そうか!冬が幸せであったのならワシの選択も間違いではなかった。よかった」


 キチョウ「本当に殿は、家族に向ける目と外に向ける目が違いすぎます」


 サブロー「そうだな。そのせいで、多くの誤解を生んだ。村重に長政、先を担う良い人材を失うこともあった。もっと話をすれば失われなかった命もある」


 キチョウ「えぇ。ですから少し安心しました。今の殿の周りには、領民だけで無く家臣たちですら笑顔に溢れ、あのように殿のことを心配してくださるのですから」


 サブロー「あぁ。ワシには勿体無い存在だ」


 キチョウ「あら、1番大切にしていた市のことは聞きませんのね?」


 サブロー「アイツは俺に似て苛烈。いや、兄想いで」


 キチョウ「子まで作っておきながら?」


 サブロー「な!?何のことであろうな。知らんな」


 キチョウ「ふふっ。隠さなくともあの時代兄妹姦通なんて、お盛んだったでしょうに」


 サブロー「ゴホン。お前が離したがると言うことは、市にも何かあったのか?」


 キチョウ「えぇ。十兵衛の天下は僅かで、中国地方の毛利と争っていたハゲ頭が山崎で呆気なく打ち倒しまして、あろうことかあのハゲ頭は、まだ幼い三法師を担ぎ上げて、市を側室に迎えようとしたのです」


 サブロー「まぁ、織田の勢力を手中にしようとするのなら三法師を据えるのは当然の判断であろうな。ハゲ頭…いや官兵衛の入れ知恵か。それにハゲ頭は市に惚れておったからな。まぁ、市は嫌っていたが。市のこと強引に迫られれば逃げよう」


 キチョウ「はい。それがさらなる悲劇を。市は、ハゲ頭としたようにやり合っていた勝家の元に逃げ」


 サブロー「市の奴、まさか権六を焚き付けたのか?」


 キチョウ「はい。その結果…」


 サブロー「言わずともわかる!権六の奴が官兵衛に勝てるわけなかろう!で、市が簡単にハゲ頭の女になるはずもない。つまりはそういうことであろう」


 キチョウ「はい。自刃されました」


 サブロー「茶々は!茶々はどうなった!」


 キチョウ「やはり娘のことは気になりますよね父として」


 サブロー「娘では無く姪だが」


 キチョウ「では、そういうことにしておきましょう」


 サブロー「して、茶々は?」


 キチョウ「秀吉が大事に養育し、側室にしました」


 サブロー「あぁ、何ということだ。あのハゲ頭の野郎、俺の娘を」


 キチョウ「だが悲劇はこれで終わりません。茶々は、秀吉の側室となり名を淀と改めます。淀と秀吉の間に産まれた男児の名を豊臣秀頼と言います。秀吉が死んで2年後、徳川家康と豊臣の天下を守ろうとした石田三成との間で大規模な戦が起こります」


 サブロー「もう良い。竹千代が本気になれば、ハゲ頭の子飼いが相手になるわけもない。それに竹千代はとても我慢強い、動いたということは時が満ちた合図じゃ。茶々もまた死んだのだな。それもお前より早く」


 キチョウ「それは分かりません。私の方が先に死にましたから寿命で」


 サブロー「しっかり大往生してるではないか!」


 キチョウ「私が最期に覚えているのは、茶々が恋焦がれていた信繁殿に助けて欲しいと文を書いていたのを知っているぐらいでしょうか」


 サブロー「一益の元に人質としていた男だな。よく覚えている。茶々とよく遊んでいるのを見たからな。俺もお似合いだと思っていた。てっきり結ばれるものとばかり」


 キチョウ「殿が長生きしていたらそうなっていたかもしれませんね」


 サブロー「全く酷い話だ。ワシのせいで、たくさん亡くなったかのようではないか…いやその通りか。だが、最終的に竹千代の手に天下が渡ったのなら暫くは平穏となろう。外にも目を向けなくなろうが」


 キチョウ「ふふっ。殿は外の世界に大層興味がおありでしたものね」


 サブロー「待て、俺の首も信忠の首も見つかっていなかったのなら、お前のことだ。俺が死んだとは思うまい?」


 キチョウ「黒サムライです」


 サブロー「弥助か!アイツならお前に知らせるのも納得だ。ワハハハハ」


 キチョウ「と、昔話はここまで今はこの世界のことで困り事がありまして、相談したいのです」


 居住まいを治したキチョウと向き合いサブローは頷くのだった。


 ※武将説明

 キンカ頭(十兵衛)・・・本能寺の変で織田信長を打ち倒した明智光秀のこと。

 ハゲ頭・・・明智光秀を打ち倒し天下を手中に納め関白になった豊臣秀吉のこと。

 鶴千代・・・織田信長が六角氏を滅ぼした時に重鎮であった蒲生賢秀が織田信長への臣従として差し出した人質で、織田信長の娘冬と婚姻した蒲生氏郷のこと。

 村重・・・織田信長のが家臣で裏切った荒木村重のこと。

 長政・・・織田信長の妹、市と婚姻していたが朝倉氏との間で、朝倉氏を選び織田信長に泣く泣く斬られた浅井長政のこと。

 一益・・・織田信長の重鎮滝川一益のこと。

 権六・・・織田信長の重鎮柴田勝家のこと。

 竹千代・・・最終的に天下を治めた徳川家康のこと。

 黒サムライ・・・バテレンの奴隷として連れられてきた黒人で、織田信長がバテレンの所業を人に在らざると称して救出し、自身の家臣にし名前を与えた弥助のこと。

 ここまでお読みくださりありがとうございます。

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 それでは、次回もお楽しみに〜

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