44話 イイモリ落城
クライム・フォン・トッテナムに言えることがあるとするならば、策士策に溺れるといったところだろうか。
勝ちを確信し、エルフとドワーフの確保を聞き次第、スパイとしての任務を終え、祖国へと帰還しようとしていた。
その時は、エルフとドワーフを捕らえた功績として、陞爵することが約束されているはずだった。
ところが今滅亡の憂き目に遭っているのは、クライムの方だ。
周りの支城をオダ軍に落とされ、もはや裸同然となったイイモリキャッスルにいて、まだ諦めていなかったのは『デビルファイア』がエルフとドワーフを捕らえ、オダの後方を脅かせれば、撤退すると踏んでいたからである。
そんなクライムの元に待望の電話が鳴る。
トゥルルル、トゥルルル。
クライム「フハハハハ。ようやくか!ようやくやってくれたか!各々方、我らの勝利を知らせる電話が鳴ったぞ!」
クライムは、勝利を確信して電話のスピーカーをオンにする。
ヴァルカス『トッテナム卿、作戦は失敗した。攫い屋集団カメレオンは壊滅し、我らデビルファイアもオダの兵器により僅か数人を残すのみとなった。オダの領地1つに我らはしてやられたのだ。そちらも至急撤退されるよう』
ツーツーツー。
今も逃げているのだろうヴァルカス・フォン・シュタインはそれだけ告げると早々と電話を切り、長い長い沈黙が訪れたが、口を開いたのはクライムの腰巾着の貴族家コンバイン・フォン・フォートである。
コンバイン「ハハハ。シュタイン卿もお人が悪い。我らマジカル王国が誇る最強戦力が、たかだか地方領主に壊滅させられるなど、何の冗談でしょうなぁ」
このコンバインの意見に追随するようにマネダス・フォン・キャンウーが続き。
マネダス「全くですなぁ。さてはデビルファイアの奴らめ。手柄を独り占めしたいのでしょう」
さらにマネダスの意見に追随するようにソダス・フォン・アレンジドが締める。
ソダス「カメレオンにデビルファイアを動員して壊滅したなど、我らへの皇帝陛下からの信頼を失墜させたいのでしょう。そうに決まっている」
腰巾着たちの言葉を聞いて、冷静だったのはクライム・フォン・トッテナムの方だった。
電話を受けてからボルバ・フォン・アイザックスに言われた言葉を思い出していた。
ボルバ『戦に絶対はない。己を過信することなかれ』
クライム「(俺はどこで読み間違えた。オダの小僧の目をタルカに向けさせ、エルフやドワーフが描かれているであろう後方の森を疎かにさせることで、その隙をついたカメレオンとデビルファイアが人攫いと豊かな森を燃やす。完璧な作戦だった。完璧な作戦だったはずだ。しかし、結果はどうだ。イイモリキャッスルを守るように立つ支城はオダの軍勢の前に落ち、カメレオンとデビルファイアは壊滅的打撃を受けた。違う!そもそも、コイツらを捨て駒として使い潰さなかったことが間違いだったのだ。俺は甘かったのだ。コイツらに周りの支城を固めさせておくべきだった。そうすれば、俺だけはまだ逃げ切れたかもしれん。だが、そんなことをして味方を見捨てた俺の居場所がマジカル王国にあるか?爵位を降格させられ、最悪の場合は生き残った責任を取り、奴隷落ちという可能性も考えられる。俺はカメレオンとデビルファイアに絶対の自信があり過ぎた。過信か。事ここに至って、それを知ったからとて、生き残る術はない。オダの小僧。いや、最善手を打ち続けたハインリッヒ卿に俺は完敗したのだ。あれは、ガキなどではない傑物だ。このことを皇帝陛下にお伝えするのは生き残ったデビルファイアの面々に任せるとしよう)俺の剣を持ってくるのだ(ハインリッヒ卿よ。まこと見事な戦であった!敗者は大人しく先にあの世に行くとしよう)」
何をするのかと見守る面々を前にクライム・フォン・トッテナムは、自分の腹に剣を刺し腹を掻っ捌いた。
介錯人も無く行った切腹は、苦痛を伴うものであったがクライムの顔は不思議と穏やかであった。
負けを悟り、敵の手にかかることをよしとせず己の手でけじめをつける。
後にクライムの死体を見たサブロー・ハインリッヒは、天晴れな最期であるとクライムの亡骸に言葉をかけたと言う。
腰巾着であったものたちは、目の前で行われたクライムの切腹という突然の出来事に混乱、この状況を打開できるのはボルバを置いて他にいないと地下牢へと向かう道中で、すでにイイモリキャッスルの中に入り込んでいたオダの死神ことハンネス・フロレンスに一刀の元、斬り捨てられる。
ハンネス「また、つまらぬものを斬ってしまったわい」
斬られたのは、マジカル王国の貴族なので決してつまらない存在ではないのだがハンネスにとって、識別する方法などない……ただ目の前に現れたから斬っただけなのだ。
マネダス「まさかお前はオダの死神……まだ生きていたとは……不覚を取った……か」
ハンネス「ふむ。1人傷が浅かったか。すまぬな綺麗に斬ってやれなんで」
かつて、ラルフ・ハインリッヒを闇討ちされ、怒り心頭となって、マジカル王国の指揮官クラスを50人近く闇討ちし、戦場を混沌とさせたオダの死神とは、ハンネス・フロレンスの別名なのだ。
そしてイイモリキャッスルが落城したことで、タルカ領は再びオダに編入されることとなる。
それは、タルカ領に住む敗残兵となった民たちの大きな不安と共に。
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