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3 婚約解消

『リズへ


僕も鳥になれればいいな。君からの贈り物が、嬉しくて、今、鳥の絵を描いているんだ。完成したら、受け取ってほしい。どんな絵になるか楽しみにしていてね。


  イヴより』


 ブリジットは、自分がしたことがイヴァンシフに影響を与えていることに感激した。そして、ブリジットが編んだ組紐を同封した手紙を出した。


『イヴ様へ


 この青い紐を見たとき、あなたの絵が浮かんだのよ。あなたの絵を見て作ったの。わたくしとお揃いなのよ。カバンや筆入れに付けてくれると嬉しいわ。

鳥の絵を楽しみにしているわ。


   ブリジットより』


 悲しいことがあったとき、ブリジットは、イヴァンシフから贈られた絵を見て心を落ち着かせたり、時には手紙を読み返していた。イヴァンシフはそこにいなくても、すでにブリジットの心の支えであった。



〰️ 〰️ 〰️



 夏休み前には、ガーリウム学園で、一人の男爵令嬢に誑かされた王子を含めた4人は、婚約者から婚約破棄されていた。しかし、それは本人たちにも周りにも秘匿とされ、その4人の改善、再教育を施されることになったのだ。


 夏休み、イリサスは、部屋に監禁状態で、シャーワント公爵の小言と家庭教師が付きっきりだった。それに安心したのか、母セザリーヌは食事をドナテルとブリジットと一緒にできるようになっていった。


〰️ 〰️ 〰️


 夏休みが明けてすぐ、シャーワント公爵家に再び王妃殿下からの手紙が届いた。その日のうちに、シャーワント公爵夫妻は王妃殿下の執務室へ赴いた。

 王妃殿下は、開口一番、ため息とともに嘆いた。


「お互いに、情けない息子の再教育が大変ね」


 王妃は自分も立ち上がり、シャーワント公爵夫妻をソファーに招いた。二人が並んで座ると、王妃はすぐに話を始めた。


「実はね、ルシュコファ王国でも、同じようなことが起こっているらしいの」


 王妃殿下は、シャルロット宛のキリーロブ王子からの手紙を二人の前に出した。セザリーヌは、それを読み、小さな悲鳴をあげた。


「ブリジットからも、キリーロブ王子殿下のことは聞いております」


 シャーワント公爵もさっと手紙を読み、テーブルにそれを置いた。


「そう。でもね、我が国の外交官からの手紙では、イヴァンシフ殿もらしいのよ」


 セザリーヌは、ブリジットの様子からそのようなことは考えておらず、かなり驚愕していた。少しよろめいて、シャーワント公爵が支える。


「それでね、こちらとしても、アナファルトとイリサスの醜態を隠して、シャルロットとブリジットを嫁がせるわけにはいかないでしょう。でも、今なら、あちらの責任にできるし、醜聞も隠せるわ」


 王妃でさえも余裕はないように見えた。


「アナファルト王子殿下もなのですか?そして、イヴァンシフ様まで………?」


 セザリーヌは、王城での噂を知らない。話が大きすぎて、考えがブリジットまで到達していない。小さく震えながら、縋るような目で公爵を見た。


「イリサスよりは、マシだという噂だが、男爵令嬢の取り巻きの一人であることは間違いない。イヴァンシフ殿のことは、私も昨日、外交官から聞いたばかりだ」


 シャーワント公爵がセザリーヌの背を支えながら答えた。


「そ、そんな……。イリサスはそのような女の子に夢中になり、こんなことになったというの?アナファルト王子殿下を裏切っているとは思わないの?

ブリジット、ブリジットはどうなるの?」


 セザリーヌがシャーワント公爵に縋り、ワナワナと震える。


「アナファルトにも落ち度があるの。セザリーヌ、アナファルトのことは気にしないで」


 セザリーヌを見る王妃殿下はとても悲しげであった。


「とにかく、今は、娘たちのことよ。すでにあちらからは、婚約破棄をしてほしいと言われているの。きっちり賠償してもらうから、あなた達にも納得してもらいたいの」


 ブリジットの知らないところで、シャルロットの婚約解消とともに、ブリジットの婚約も解消された。


 後で、それを知ったブリジットは、ショックのあまり、数日間寝込んでしまった。


〰️ 〰️ 〰️



 ブリジットは、ショックが癒えないまま、数カ月も、公爵邸内で、何もせずにいた。

 そんなある日、美術館からブリジット宛に招待状が届いた。


「最近になって、館長様がお戻りになられたのよ。侯爵様なのだけれど、放浪して絵を描くことがお好きな方なのよ。ブリジットには、よい気分転換になるわ。行ってらっしゃいな」


 ブリジットを心配していたセザリーヌにほぼ無理矢理着替えさせられて、馬車に押し込められた。


 美術館に着いてみれば、その日はブリジットの貸し切りとなっていた。


「いらっしゃい。かわいいお嬢さん。君がブリジット嬢かな?」


 中年の品のいい男性が、ブリジットを迎えてくれた。おそらく、館長であるガタリッチ侯爵であろう。優雅なエスコートに、自然に付き従ってしまった。少し警戒していたブリジットだったが、ガタリッチ侯爵は、絵の1つ1つを丁寧に説明してくれるだけであった。

 元々、絵画を好きだったブリジットは、イヴァンシフとの手紙のやり取りで、さらに興味を持ち、図書館でもいろいろと調べたし、この美術館も訪れたのは一度や二度ではなかった。

 しかし、ガタリッチ侯爵の話はとても面白く、ブリジットは絵の奥深さをさらに知ることになった。


「君は絵を描くのかな?」


「いえ、わたくしは、見る専門ですの」


「そんなことを言わずにやってみたらどうだい?私が教えてあげよう」


 ガタリッチ侯爵の笑顔に惹かれ、ブリジットは、頷いていた。何かを始めれば、気持ちが変わるかもしれないとも思った。 


「うん、いい子だ。では、弟子になったお祝いにこれをあげよう。家に帰って、一人になったら、開けなさい。そして、君だけの場所に隠しておくんだよ」


 ガタリッチ侯爵は、ウィンクをして、人差し指を口に当て、ナイショだよと言った。


「いつまで(秘密)ですの?」


「その時がきたら、君にもすぐにわかるさ」


 公爵邸に戻り、ガタリッチ侯爵の言うとおりにしたブリジットは、その絵を見て涙を流した。そして、大事に引き出しへ締まって鍵をかけた。そこに付いていた手紙と一緒に。



〰️ 〰️ 〰️



 翌日から、すっかり元気になったブリジットは、王宮に手紙を書いて、シャルロットとお茶会の約束をした。シャルロットは元々キリーロブのことは、政略結婚としか思っていなかったので、気にしていないどころか、喜んでいたが、ブリジットがイヴァンシフのことを本気で好きだったことも知っていたので、控えめに喜んでいた。


「シャル、もう気にしないで。わたくしなら、大丈夫よ。それより、イリサス兄様たちのことを教えてくださる?」


「あら?ご家族には聞かないの?」


「みんな、わたくしには隠したがるの。特にドナ兄様なんて、まるでわたくしを幼い子供扱いなんですもの」


 ブリジットは、少し拗ねてみせた。口でいうほど怒ってなどいない。だが、知りたいのも本当だ。知ることで、母親セザリーヌの気持ちに寄り添えたらいいと思っていた。


「ドナテル様はお優しいのね。わたくしも、あまり聞いていないの。ごめんなさいね。でも、何かわかったら、必ず連絡するわね」


 二人は何があっても友達だということも改めて誓いあった。



〰️ 


 イリサスの卒業式、その日は朝から屋敷中が騒がしいような落ち着かない様子だった。イリサスの着替えだけのはずなのに、イリサスが出かけた後も、なぜかソワソワしている。


 メイドが部屋に、ブリジットを呼びに来た。


「奥様がお部屋でお待ちです」


 ブリジットは、メイドについていく。セザリーヌの部屋ではすでにお茶のいい香りがしていた。


「リジー、こちらにいらっしゃい」


 ソファーに座るセザリーヌのあまりにも儚げな笑顔にブリジットは、驚いた。セザリーヌの指示通り、セザリーヌの隣に座る。


「今日は、イリサスの学園の卒業式なの」


 セザリーヌは、泣いているような微笑をブリジットにむけた。


「はい。知っておりますわ。お母様はお着替えにならなくてよろしいの?」


 ブリジットの質問に、セザリーヌは微笑もできなくなり、震えていた。


「わ、わたくしは…………、怖くて怖くてとても行けないわ。わたくしは、見ていられる自信がないもの……」


 セザリーヌが涙を流すと、訳を知っているのであろうメイドが、セザリーヌの脇で、甲斐甲斐しく背中を擦り、涙を拭いてやっている。ブリジットは、普段ブリジットやドナテルの前ではここまで乱れない母親セザリーヌの今日の姿に何も言えなくなった。


 メイドとメイド長が何やら話をした。メイド長がブリジットへと近づく。


「ブリジットお嬢様、申し訳ありません。ブリジットお嬢様のお部屋で、お話させていただいてもよろしいですか?」


 メイド長の提案をのみ、泣いている母親の背を一度擦り、部屋を出た。

ご意見ご感想、評価などをいただけますと嬉しいです。


毎日、午後に更新予定です!

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