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2 初めての恋文

 王妃殿下は、シャルロットを一人で遠くに嫁がせる心配とルシュコファ王国の第3勢力に利用されることに不安を持っていた。そこに、シャルロットとブリジットの事件が起きた。そして、王妃殿下に名案が浮かんだのだ。

 王妃殿下は、早速、ルシュコファ王国の外交官と連絡をとり、その名案を実行するべく動き出す。


 そして、2ヶ月後、王妃殿下の元へ王妃殿下が待ちわびた返事が届いた。それを元にシャーワント公爵家へ手紙を書いた。


『シャーワント公爵家が長女ブリジット嬢に、婚約のお話が来ています。お相手は、ルシュコファ王国のマクレンツェ公爵家が長男イヴァンシフ様です。

詳しい話をしたいので、ご夫妻とブリジット嬢は、わたくしの執務室へいらしてください』


 王妃殿下にとって、シャルロットの親友が嫁ぐことによって、シャルロットにマクレンツェ公爵の後押しができることになると踏んだのだ。


 シャーワント公爵家にとっては、まさに寝耳に水の話だが、王妃殿下の呼び出しでは無視もできない。


 そして、国と国との外交結婚なので、無視もできなければ、拒否もできない。つまり、ブリジットの婚約は、決定した。

 お相手は1つ年上の公爵家の跡取り息子、第1王子の側近候補の者であった。


〰️ 〰️ 〰️



 王妃殿下の勧めで、ブリジットとシャルロットは、それぞれの婚約者に手紙を書くため、大陸共通語を勉強することになった。1年ほどで辞書を使えば、手紙を書けるくらいになり、11歳のブリジットとシャルロットは、初めての恋文を書いた。間違いがないかどうか、何度も家庭教師に添削してもらった。

 執事に手配を頼むため手渡すだけで、ドキドキした。


『はじめまして、シャーワント公爵家のブリジットでございます。

わたくしは今、大陸共通語をお勉強中です。いつかイヴァンシフ様とお話ができるように頑張ってまいります。


  ブリジットより』


 たった数行の恋文であったが、一生懸命に綴った。


〰️ 〰️ 〰️



 それから一月半、シャーワント公爵家にマクレンツェ公爵家の封蝋とイヴァンシフの名前が書かれた手紙が届いた。


『ブリジット嬢、こんにちは。お手紙、ありがとう。

僕は君からのお手紙がとても嬉しくて、僕だけの秘密の引き出しに大切にしまいました。

僕も大陸共通語は勉強しているところなので、もしかしたら、恥ずかしい間違いをしてしまうかもしれないけれど、どうか笑わないで読んでほしい。

また、手紙をもらえると嬉しいです。

   イヴァンシフより』


 とてもキレイな字で、かといって、決して大人の字ではないので、イヴァンシフ本人からの手紙だと思われる。『間違えも笑わないで』というのは、1つ年下のブリジットに気を使った言葉であることは、明白である。

 ブリジットは、翌日、家庭教師から教わりながら、一生懸命に返事を書いた。母親セザリーヌにお願いして、封蝋してもらい、執事に配達の手配を頼んだ。


 そして、翌日、イヴァンシフからの手紙を持って、シャルロットとのお茶会に王宮へ出かけた。

 しかし、その日のシャルロットは、少し不機嫌なようだ。いつもの東屋でお話を始める。


「キリーロブ第1王子殿下から、お手紙が届きましたの。でもね、絶対、ご本人からのお手紙ではないわっ!だって、先日の贈り物のときと、同じ方の文字ですもの!わたくし、どうしたら、いいのかしら?」


 不機嫌な様子から、落ち込んだ様子になったシャルロットに、ブリジットはイヴァンシフからの手紙は見せられないと思い、スカートの後ろに隠した。

 でも、長年の友達なのだ。すぐに見つかった。


「まあ!イヴァンシフ様って、ステキなお方ね。リジー、是非お返事するのよ!リジーは、わたくしのためにルシュコファ王国へ、来てくれるのだもの。幸せな結婚であってほしいわ!」


 シャルロットが応援してくれるので、ブリジットは、気兼ねなくイヴァンシフに手紙を書くことができた。


〰️ 〰️ 〰️



 年を重ね、文通も十数度目かになると、一人で書けるようにもなり、送る文も送られてくる文も長くなってくる。その分、相手のことを知るようになり、ブリジットは、イヴァンシフのことをとても慕うようになっていた。


 しかし、シャルロットは、キリーロブ第1王子とのやり取りは、お互いの誕生日のみで、親睦を深めている様子はなかった。


「リジー、気にしないで。わたくしは政略結婚であると理解しているもの。お誕生日に無視されないだけで、充分だわ」


 シャルロットは、ブリジットに嘘や見栄ではなく、王女としての威厳を持ってそう言っていた。


〰️ 


 ブリジットが13歳になった頃、シャーワント公爵家の家族の様子がおかしくなった。母親セザリーヌはよく長兄イリサスを叱っていたし、よく泣いている様子だった。父親も、家にいるときには、イリサスを執務室へ呼んでいるようだった。


 そして、その春、宰相を目指し勉強しているはずのイリサスが、学園の最上級学年になるとき、成績順のクラス分けにおいて、Cクラスに落ちた。セザリーヌはその日から数日寝込んでしまった。


「ドナ兄様、イリサスお兄様は大丈夫ですの?」


 休日の朝食、先日まで母セザリーヌも長兄イリサスも一緒だった食堂室に、今は次兄ドナテルとブリジットだけであった。


「僕は詳しくは、わからない。でも、母上の様子を考えると、よくない方向みたいだね。リジーが学園に来ていなくてよかったって思っているよ」


 ドナテルは、困り顔であったが、口元だけ無理に笑っていた。ドナテルがブリジットを心配してくれていることがわかるので、ブリジットは、深く聞けなかった。


 シャーワント公爵家は、どんどん雰囲気が悪くなっていった。セザリーヌはいつも寝込んでいたし、イリサスは週末にも帰ってこなくなってしまった。



〰️ 〰️ 〰️


 そんなとき、ブリジットの心の安らぎはイヴァンシフからの手紙だった。今までもらった手紙を何度も読み直す。


 去年のお誕生日プレゼントには、イヴァンシフが描いたという 青空と草原の絵を贈ってくれた。ノートほどの大きさの絵である。


『リズへ


空は君まで繋がっている。君を見つめている空が羨ましい


  イヴより』


 絵とともに送られた手紙にはそう書かれていた。


 それは額にいれて、ブリジットの部屋のソファーの側に飾られている。いつでも目に入るところにと、メイドにお願いしたら、そうしてくれたのだ。


 ブリジットは、そのお礼にと、鳥を刺繍したハンカチを送った。


『イヴァンシフ様


鳥になれば、この空を飛んで、貴方に会いに行けるのかしら。


   リズより』


 と、手紙を添えた。


〰️ 〰️ 〰️


 イリサスが週末に帰ってくるようになり、イリサスには、週末の家庭教師がつけられ、落ち着くかに見えた。


 だが、イリサスは、朝帰りを度々するようになり、セザリーヌはとうとうイリサスの部屋に乗り込んだ。

 鳴き声と嗚咽と怒鳴り声。今まで聞いたこともない声に、ブリジットは、そっと廊下に続くドアを開けた。どうやら声は、イリサスの部屋から聞こえてくる。何を言っているかは全くわからないが、声の主が母親セザリーヌであることはすぐにわかった。ブリジットは母親が壊れてしまったのではないかと思い、辛くて悲しくて、ドアを握りしめて泣いていた。そこにドナテルが通りかかった。

 ドナテルはブリジットのところへいき、ブリジットをベッドまで連れて行った。


「リジーが寝るまでここにいるよ。おやすみ」


 ドナテルは、ブリジットと手をつないでベッドの傍らにいてくれた。そして、ドナテルもそのまま寝てしまった。


 朝、二人は顔を合わせて笑顔で挨拶したが、その目は、二人とも悲しみに満ちていた。


〰️ 〰️ 〰️


 ブリジットたちより1つ年上のキリーロブとイヴァンシフは、今年から学園に通っている。その頃届いたイヴァンシフからの手紙は学園で頑張っている様子が書かれいた。王子殿下やご友人と楽しまれている様子であった。


 同じ頃、シャルロットにも手紙が届いたらしい。 シャルロットから相談があると手紙をもらっていた。キリーロブ第1王子から初めて、直筆だろうと思われる内容の手紙が、シャルロットに届いたそうだ。


 その手紙を受けて、お茶をすることになった。ドナテルたちの夏休みより少し前、ブリジットとシャルロットは、王宮でお茶会をした。


 お茶を一口いただくと、すぐに、不機嫌なシャルロットがその手紙を見せてくれた。というより、シャルロットの口からは手紙の内容を説明したくなかったのだろう。それほど、その内容は驚きのものであった。


 イヴァンシフも通う学園で、キリーロブは運命の女性に出会ったというのだ。そして、キリーロブから婚約解消を切り出してもうまくいかなそうなので、シャルロットから婚約解消してほしいとの内容であった。


「ねぇ!ブリジット、こんなこと信じられる?まさか、わたくしたちのお兄様と同じことをなさっている方が、わたくしの婚約者だなんて!」


 シャルロットは、語気は強いがブリジットにしか聞こえない声で、しかし、淑女らしからぬ口調であった。シャルロットは、あれもこれもわけがわからない。


「シャル、『わたくしたちのお兄様』って何?」


「わたくしも先日、専属のメイドから聞いたのですけど、アナファルトお兄様と、あなたのお兄様のイリサス様たちが、お一人の男爵令嬢に夢中なのですって。お父様たちは大変悩んでらっしゃるというお話よ」


 シャルロットは怒りを込めた目で説明した。

 ブリジットは、とてもびっくりした。ブリジットは、最近、長兄イリサスが父母に怒られているところは何度も見たし、家族の雰囲気はよくない。でも、まさか長兄イリサスの女性問題であったとは、知らなかったのだ。イリサスの婚約者は侯爵令嬢イメルダリア嬢で、彼女は聡明で美しいご令嬢であり、公爵邸に来たときには、ブリジットにも笑顔で接してくれる方であった。


「明日、ドナテルお兄様に聞いてみるわ」


 ブリジットは、手の中のハンカチをギュッと握って、不安をあまり外に出さないように心がけた。


〰️ 


 週末に戻ってきたドナテルに説明を求めると、ドナテルは、渋い顔で頷いた。


「リジーには、あまり知られたくなかったんだけど……」


 ドナテルはどこまでも優しい兄であった。

 ブリジットは、イリサスが婚約者がいるにも関わらず他の女性にフラフラするような不誠実な人であったことが、とてもショックであった。ブリジットは、それまで長兄としてイリサスをとても尊敬していたのだ。

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毎日、午後に更新予定です!

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