第二十三話 新たな住民
イザーク一行を乗せた馬車がスターク王国との国境に到着した。
国境付近は大きな草原になっていて難民の待機場所としては最適てあった。
既に先行した役人同士でスターク王国とヘルタベルン間の受け渡し手続きは完了していた。
馬車を降りたイザークに役人が近づき一礼をして書類を渡す。
イザークは書類に一通り軽く目を通し、難民たちの方へ視線を移した。
すると難民の代表者らしき人物達がイザーク達に向かって歩み寄ってきた。
「アンタがヘルタベルンのお偉いさんかい?俺たちをまとめて面倒見てくれるってのぁ本当なんだろうな?」
身長二メートル程もある筋骨隆々の大男が訝し気に問いかけてきた。
「ああ、みんな残らずうちで面倒見るつもりだ。よろしくな。」
笑顔でイザークは答えた。
「この数をまとめてなんてにわかにゃ信じらんねえが、まぁこっちにしちゃ渡りに船だ、とりあえずはアンタについてく事にするぜ。」
「ありがたい、では十万にもなる移住だ、ここにはいろんな部族が集まってる事だろう。それぞれの部族の代表者を君達で選出して集まってくれ。十五分後に代表者達と軽い打ち合わせをした後、移動する。」
イザークがそう言うと、細身で色黒の男が既に代表者は選出してあり、ここに集まってる旨をイザークに伝えたのでそのまま打ち合わせに入る事になった。
集まったそれぞれの部族の代表が自己紹介をする。
「俺たちは連邦の北方の部族でシガーってんだ。よろしくな。」
「ギーフだ。」
「エミよ、よろしくね。」
北の部族の代表三人が挨拶した。
体格が良く肉体派の部族であった。
「ウチはケモミ族のマリエや、よろしゅう。」
「ワイはミュート、よろしゅうたのんまっさ。」
続いてケモミ族の代表二人が挨拶する。
ケモミ族というだけあって獣の耳と尻尾がある獣人の一族であった。
マリエは猫耳と猫の尻尾を生やした女性、ミュートはもふもふで犬っぽいが、見るからにアレだ。
ミュートを見て思わずイザークは口に出してしまう。
「チャウチャウ……!?」
「チャウチャウ?チャウチャウちゃうで!ミュートやで!」
ミュートが即座に否定した。
どうやらこの世界にはチャウチャウと呼ばれる種の犬はいないようだ。しかし顔がまんまチャウチャウなのでミュートという名前が霞んでしまい覚えられる気がしなかったが、イザークは口には出さなかった。
「私達は南の部族でチャムルと申します。どうぞ良しなに。」
「パーンです、よろしく。」
肌が浅黒く細身で伸長も低めである。
前世で言うところのインドや東南アジア系の人種に似ていた。
話を聞くと南の部族は身体的能力は低いが数字に強く頭が良かった。
「私は南東の隣国、ラシエン公国から逃れてきました、シエラと申します。以後お見知りおきを。」
「ほう、他国からの移民の方か。見た所、君はダークエルフかい?」
「はい、その通りでございます。」
ラシエン公国とはスターク連邦の南東に国境を隔てた隣国である。
大陸の中央にある聖地、ロマニア聖教国から見て南がラシエン公国、西がスターク連邦となっていた。
ラシエン公国は人口のほとんどがエルフで形成された国であり、現在政権を握っているのがハイエルフ族であった。どうやらハイエルフとのいざこざで国を追われてきた者達であった。
ハイエルフにしろダークエルフにしろ、エルフ族は元来弓が得意で手先が器用であった。
多種多様な部族の集まりである事を確認し、イザークはしばらく考え込み考えをまとめていった。
「みんなにはこれから移住先の土地で各々仕事に従事してもらう事になる。」
「うおっ、マジかよ!俺たちみんな現地で職にありつけるってのか?」
「その通りだ、よろしく頼むぞ。」
北の部族代表のシガーの驚きにイザークは笑顔で答えた。
各部族の代表は喜びの笑みを見せたが、アリーゼ、フィオナを始めとするヘルタベルンの面々は違った意味の驚きの表情を見せた。
「よし、ではこれから皆移動するが、移動は数が数なのでここまで来た通り徒歩移動とする。そして移動場所は各部族毎に割り振る形になり、纏まって暮らしてもらう事になる。」
そう言ってイザークはヘルタベルンの役人達にそれぞれ各部族の先導役として命を出し、その行先を伝えた。
イザーク達はこの場に来る際乗って来た馬車に乗りイプセン方面に向かった。
そして各部族の代表も別の馬車で先行して各目的地に先回りし、後から来る各々の部族を受け入れる準備をする手はずになっていた。
こうしてスターク王国からの移民はそれぞれの新天地へ向かって走り出したのであった。




