第二十話 どうしてこうなった
ヘルタベルン応接室兼会議室――。
リノア姫を上座にヘルタベルンの面々が席についている。
「では今回の一件ついての戦後処理ですが……。」
出されたお茶を一すすりしてリノア姫が口を開いた。
『ここからがヘルタベルンの今後を左右する大一番になるぞ……。』
何故ならこの戦後処理でヘルタベルンが利を得るためにどこまでスターク家の譲歩を得られるかが鍵をにぎるからだ。
ヘルタベルンは隣国に攻め込まれた事に対しての自衛戦争となる。そしてそれに完全勝利した。
普通戦争に勝利すればその国は戦勝国の管理下に置かれる。
しかし形式上ヘルタベルン、オーレン、トリステンはスターク連邦に加盟する一自治領である。主権はあるが正式な国と呼べるかといえば怪しい。連邦を運営する大筋の決定権はスターク王国が握っているのが現状であった。
そのスターク家をないがしろにしてヘルタベルンが独自でオーレン、トリステンを併合したとなれば盟主スターク家との力関係に近づきすぎる事になるし、今までのスターク派として築いてきたヘルタベルンとの友好関係に大きな溝ができるのは必定であったからだ。
かといってスターク家に戦後処理の決定を全て委任してしまえば確実にオーレンとトリステンはスターク王国の直轄領となるのは目に見えていた。
それはそうであろう。元々スターク王国盟主のスターク連邦である。
今回の戦争はいわば内戦であって、スターク家からすれば滅んだ側の貴族領はただ穴の開いたスターク連邦の空白地帯に過ぎない。
よってスターク家からすれば空白地帯は直轄とするのが筋である。
しかしヘルタベルンからすればたまったものではなかった。
別に他領を欲して始めた訳ではないが、身を切って戦った挙句何も無しでは終われない。
スターク家からどこまでの譲歩を勝ち取れるかがこの会談にかかっているといえた。
使者が来る前に、ヘルタベルンの面々は既にどこまでスターク家に要求を突きつけるか議論していた。そしてそのの結果出た答えが、オーレンかトリステンどちらか一国の併合である。
どちらもよこせというのは流石に無理があるのでこれがギリギリ踏み込める一線だという結論に至っていた。
「……まずヘルタベルンの意見をお聞かせ願えるかしら?」
「今回の件で我々の――」
「我々の要求は――。」
クラウスが一呼吸おいてリノア姫に発言しようとした時、イザークがそこに割り込んできた。
クラウスとエリーザ、その他のヘルタベルン関係者が皆驚いてイザークを見た。
イザークは構わず続けた。
「我々の要求は、オーレン、トリステン、この二領のヘルタベルンへの併合です。」
『『『『えええええええええーっ!?』』』』
リノア姫を除いたイザークの発言を聞いた皆が驚きを隠せず目を見開いた。
『ちょっと待つんだイザーク、……はっ話が違うではないかっ!?』
クラウスが口をパクパクさせて額から汗を垂らしていいる。
アシュレイなどはスターク代表のリノア姫と実家との板挟みになるであろう極近い未来を想像しオロオロとリノアとイザークを交互に見るしかできないでいた。
この時点でスターク家からしてみれば、ヘルタベルンに反意有りとみなせる発言であった。
応接室に緊張が走った。
しかし言われた当の本人、リノア姫は一口お茶をすすり返答する。
「良いでしょう、ではそういたしましょう。」
『『『『えええええええええーっ!?』』』』
応接室にさらに驚きの心の声が響いた。
要求を突きつけたイザークですら気合の踏み込みであったのに、それをあっさりと受け入れられたのだ。
『こうもあっさりと……何を考えている、リノア姫?』
イザークにも焦りの表情が見えた。
「私は父王からこの件に関しての全権を任されております。従って私の決定はスターク国王の決定と同意という事です。」
「しかしこのイザーク殿の要求全てをそのまま受けるというのは当家としてはとても心寂しいものになりますね。ですので一つ条件を付けさせてもらってもよろしいかしら?」
ここまで踏み込んだ要求を承認してもらえるのである。ヘルタベルンとしてはかなりの条件を提示されたとしても利の方が上回る計算である。
「その条件、お聞かせ願えますかな?」
クラウスが恐る恐るリノアに問いかけた。
「条件は――。イザークと私との結婚、つまりイザーク=ヘルタベルンを我がスターク家の婿に迎える事が条件になります。」
「「ちょ、ちょっ、ちょ――――っ!!」」
アシュレイとアリーゼが勢いよく立ち上がり絶叫の声を上げた。
額から滝の様に汗が流れ落ち顔が青ざめている。
エリーザはあまりの意外な要求に笑いを堪えて肩を震わせている。
当のイザークはどうしてこうなったとばかりに口をぽかんと開け、茫然とリノアを見ていた。
『え?何コレ……?どういう事……?』
リノア姫以外の面々の思考はしばらく停止した。




