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第十七話 アーカンベルグの雷

 イザークが【異空間】の扉を開き兵士達がぞろぞろと出てきた。

ラースとコーリンが周りを見渡し現状を確認する。


「イザーク、ここはどこだい?それに敵兵は?」


「敵はこの先のアーカンベルグ山岳地帯に入った所だ。その前にここの人々を弔ってあげたい。」


ラース達が見た先には多くの一般人の亡骸があった。その死体の無残さはトリステン軍の残忍さが見て取れるほどであった。


「皆、二人一組になって遺体を一か所に回収します。敵兵はすぐそこです、迅速に行動せよ!」

コーリンが銃士隊に指示を出し、隊士が素早く行動に移った。


一時間後、街の遺体が全て街はずれの丘に集められた。

そこにはイザークが時空魔法で掘った十分な深さの大穴が開いており、そこに丁寧にいたいが積み重ねられていた。


銃士達がそこに土をかぶせていき、全員で黙祷を捧げた。


イザークが両隣にいるラースとコーリンに話しかける。

「こんなにも犠牲を出してしまった……。」


「誰一人失う事無く勝つなんて虫が良すぎるよ。悲しいけど戦とはこういうものだと思うよ。」

「私共将兵はいつでも死ぬ覚悟で戦地に赴いてはおりますが、その戦で割を食うのはいつも民間人……。悲しい事です。」


ラースとコーリンがそれぞれの言葉で初陣のイザークを慰めた。

宣戦布告も無く一方的に攻めてきたのはトリステンである。しかし迎え撃つヘルタベルン側の作戦立案、指揮はイザークが担っている、つまりイザークはこの戦の責任者でもあるのだった。

それを理解しているからこその二人の慰めだった。


「オーレンでの戦いで俺は作戦立案だけでほとんど君達にその実行を任せていた。今回は俺も軍の指揮官としてこの手を汚す覚悟だ。」


そう言ってイザークは振り返り、後ろに控える銃士隊に吼えた。

「この次の戦地はあの先に見えるアーカンベルグだ!この戦いでトリステンを叩き潰し、一兵たりとも故郷の土を踏ませぬつもりで戦うぞ!」


「おおおおおおおお!!」


銃士達の指揮は大いに高まり再び異空間での移動に入った。


――――イザークは一人飛空術でアーカンベルグ山岳地帯に引き返した。トリステン軍の行軍を眼下に確認しながら先回りをする。


敵軍の先陣から十分な距離をとった地点で着地し、魔法で岸壁の一部を崩し始めた。敵軍の先陣をここで足止めするためであった。


岸壁を崩し終わるとイザークは再び空に舞い、今度はトリステン軍の最後尾に降り立つ。

最後尾の幾人かが空から降り立ったイザークに気付き声を上げた。


「な、なんだ貴様!」

「お、おい、今上から降ってこなかったか!?」


イザークは無視し【異空間】の扉を開く。

その瞬間手際よく五百人の銃士達が飛び出し三列横隊に布陣し銃を構えた。


そこでヘルタベルンの兵士だと気付いた最後尾の歩兵隊がイザーク達に向かって襲い掛かってくる。


放て(ファイエル)!!」

ラースの号令と共に一斉に銃口が火を噴いた。


トリステンの最後尾部隊が次々と倒れていく。

意味も解らずトリステン軍は次々と倒れていく。轟音と共に倒れていく味方からは同時に血の匂いが立ち込めてくる。この把握不能な状況と血の匂いでトリステン軍は大いに恐れおののいた。


それを三度繰り返した時、トリステン軍は既に大混乱に陥っていた。


トリステン軍は後方から中陣、先陣へと恐怖が伝染し、後ろの兵が味方を押しのけ我先にと先陣方面へと詰めかけていった。


――――「何事か!」


先陣のダリウスが叫ぶ間も奇妙な雷鳴の様な破裂音は続く。


後方から伝令がとんで来た。


「隊列の背後に敵兵!その数およそ五百!!」


「なんだと!?」


「狼狽えるでない!敵兵はたった五百、数で圧し潰してしまえ!」

そう激を飛ばし兵士を制しようとしたが伝染した兵の混乱は収まらない。むしろ後から後から後方の歩兵が前に津波のように押し寄せてきた。


恐怖に引きつった顔で後ろの歩兵が押し寄せて、前方の騎馬隊の馬が興奮しいななく。押し寄せた歩兵達は、いななき跳ね馬の様に暴れる馬の前足に踏みつぶされ、振り落とされた騎馬兵は後ろ脚で蹴飛ばされ絶命した。そこら中で味方同士がひしめき合い人と馬の悲鳴が交差し血煙が上がった。


事態の混乱の源泉を確認すべくダリウスとアイザックは後方付近まで馬を進めた。


そこにい待ち受けていたのは正しく五百名程度の奇妙な武装のヘルタベルン軍であった。


一人の少年が隊の前に歩み出た。

その少年はゆっくりと宙に浮き、上空へと昇って行く。

目の当たりにしたダリウスを初めとしたトリステン兵の目ははその少年に釘付けになり、ゆっくりと空に昇って行く少年をただ見送った。


陽は既に西に傾きかけ赤く燃える太陽が少年と重なり、まるでその罔両(もうりょう)から後光が射すかの様だった。


ただ見上げていたトリステン軍の兵士の一人が声を上げた。


「天使だ……。」


かすれるような小さな声であったがその場にいた多くの者がその声を聞き取った。

この混乱した状況下でトリステンの兵士たちはただ空の人らしき者に目をうばわれている。


空に浮かぶ少年の周りが帯電し気付けば少年の周りに小さな球体がいくつも浮かんでいた。


「お前たちに慈悲は与えない。」


少年の口が何やらパクパクと動いたのが見えた。


その瞬間、球体が閃光の如きスピードでトリステン軍に襲い掛かった。

オレンジ色の閃光の尾を引いて地面に突き刺さった()()は、大爆発を起こしトリステン兵を木っ端の様に吹き飛ばした。


絶叫と共に血と兵士が宙を舞う。

空からは次々に光の矢が突き刺さりその一つ一つが地面に大きなクレーターを穿つ程の衝撃と爆発を生み、尾を引く閃光は着弾後もそのスピードと空気の摩擦によって帯電を残すほどであった。


トリステン軍は何が起こったのかすら理解できず、成すすべなく地面に押しつぶされ、宙に投げ出され、その熱量によって溶けて消えた。


イザークは腰袋に携帯していた数十個の元大岩であった小石を全て敵兵に向けて放出したのだ。

完全なるオーバーキルであったが、イザークは躊躇いなしに全てを叩きつけた。


最後尾を塞ぐ銃士隊にまで爆発が届きそうな勢いであったが、前に一度だけその威力のすさまじさを体感していたコーリン、ラースを始めとする銃士隊は皆地面に身を伏せ、必死に衝撃を堪えた。


イザークが全弾を打ち尽くした時、アーカンベルグ山岳地帯中腹の地形は数十ものクレーターが折り重なり、地面から突起した岩々が全て消え去りいびつなものへと姿を変えていた。


一万ものトリステン軍は全て肉塊と消し炭と化したのだった。


味方である銃士隊の面々もその状況を見て大いに畏怖した。


イザーク=ヘルタベルンが我々の味方でよかったと……。

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