↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

第十六話 大返し

 ヘルタベルン軍がオーレン城を包囲していた頃、トリスタンは西の国境を越えヘルタベルンの街や村を略奪して回っていた。


この時既に四つの村が略奪し尽くされており、食料は奪われ、家々には火をかけられ燃え盛り、女は犯され、男、老人、子供は無残に殺された。

既に二千人近い民間人がトリステン兵によって命を奪われていた。


最後に焼かれた村から少し離れた所にトリステン軍一万が駐留し、荷駄隊を編成するいくつもの荷馬車には略奪した食料が山のように積み上げられ、その作業を終えようとしていた。


総大将として自ら出陣していたダリウスの元に乱れた衣服を整えながら息子のアイザックが歩み寄ってきた。

「父上、この一帯の集落はほぼ略奪し尽くした様です。いかがいたしますか?」


「このまま進軍する。しかし国境を越えて幾日か経つが、ヘルタベルンの軍勢が来る気配が全く無いのはどういう事か?」


「は、斥候の報告によりますと現在ヘルタベルンは東のオーレンと交戦中ですべての兵力は国境ないしオーレン領内にいるとの事でございます。」


父の問いに得意気に答えるアイザックであった。


「ハハハハ!滑稽よ!良いぞオーレンの者共よ、精々ヘルタベルンの注意を引くがよいぞ、その内に我がトリステンが無人の野を行くが如く蹂躙して見せようぞ!」


息子の報告を受けダリウスは馬上で隣国とさらにその東の隣国を嘲笑した。


「早速準備いたせ。このまま途中の街で略奪しつつ中央都市まで兵を進める。せっかく遠路バカンスに来たのだ、数年ぶりにクラウスの引きつった顔でも拝んで帰るとしよう。」


半日後、トリステン軍は中央へ向けて国境よりさらに内側の山岳地帯を行軍中だった。

同じような岩の壁と見飽きた晴天が続きダリウスは退屈そうにだらだらと馬に揺られていた。


「相変わらず田舎であるなヘルタベルンは……。この様な地に住む者の気が知れんわ。」


「誹謗はいけませんぞ父上、もうしばらくもすればここも我がトリステンの地となるのですから。」


「そうであったな、いやすまんすまん。」

親子でくだらない会話をつづけていると遠くのほうで「ズウウウン……」という妙な音が聞こえた。


「なんだあの音は?」

「はて、何でございましょう、地震ですかな?」


しばらく行軍するとその奇妙な音の原因が判明した。

落石であった。進路を埋め尽くすという程の高さではない。精々一メートルから二メートル程に積み重なった岩と土砂である。歩兵ならばなんとか超えられる程度ではあったが、トリステン軍の先陣を占めるのは騎兵でありその数は三千を超えた。


その三千頭の馬をこの場に捨てて歩いて進むなどという発想はダリウスにはなかったので、まだ野営には早い時間であったが今日はここで野営して明日の朝までに岩の除去することとなった。


ダリウスが馬を降りようとした瞬間、隊列の最後尾の方でなにやら叫び声が聞こえ向き直った。


「何事か?」

そう発した瞬間、落雷の様な破裂音がダリウスの耳を貫いた。

軍列の最後尾から叫び声が上がる。しかしその音は周りの崖や岩肌に反響して何処から聞こえてくるものかすら判断しかねるくらいだった。


後方から伝令がとんでくる。

「隊列の背後に敵兵!その数およそ五百!!」

「なんだと!?」


ここはほぼ一本道の山岳地帯。敵に後ろを取られるなどあり得ないと思いつつもダリウスは冷静に支持を飛ばす。


「狼狽えるでない!敵兵はたった五百、数で圧し潰してしまえ!」

その直後、またあの乾いた雷鳴が鳴り響いた。


急いで馬を駆り後方の確認に向かったダリウスの視線の先には数百の奇妙な鉄の筒を構えた敵兵がいたのだった。



 ◇



――半日前

 オーレンに駐在するヘルタベルン陣営から五百の銃士隊を選抜したイザークは野営地から少し離れた広場に兵士たちを集め整列させていた。


「馬はどうする?さすがに馬がないと西の国境にたどり着くころには中央都市まで攻め込まれてる可能性がたかいよ?」


ラースが心配そうにイザークに問いかけた。


「馬はいらない。馬じゃ間に合わない。」

「それでは私たちはどうすればよいでしょう?」


イザークの返答にコーリンがさらに問いかけ支持を仰いだ。


「こうする。」

コーリンに答えるようにイザークは左手を胸の前に突き出し時空魔法を発動した。

発動した魔法は【異空間】――。

覚え始めの頃は小さな空間だったが、今では体育館ほどの広さを確保できるようになっていた。


イザークの突き出した掌の先に真っ黒で人が一人通れそうな縦長の渦が表れた。

「この魔法は【異空間】という、この中は大きな空間になっていて五百人程度なら余裕をもって入れる。全員この中に入ってもらい、俺が移動した先で再び扉を開けばそことつながるってカラクリさ。」


皆がそんな馬鹿なという顔をする中、コーリンが真面目な質問をする。

「それは分かりましたが、イザーク様はどうやって移動するのですか?」


「俺は一度行ったことのある場所ならば【瞬間移動】で移動できる。過去の巡察で行った事のある場所できる限り西のポイントまでは瞬間移動を使う。そこからは飛空術で飛べば地形の障害なく真っ直ぐ最短距離で進めるし敵軍も空を警戒したりはしないだろうから安全に移動が可能だ。」


「瞬間移動に飛空……。いえ、深く考えるのは止します。」

コーリンはそれ以上の詮索は無意味であり自分とイザークの差に落胆するだけだと思い考えるのを止めた。


「さぁラース、兵が怯えている。隊長代理の君が先に入って皆を続かせるんだ。」

「嫌にきまってるだろぉ!こんな怪しい穴に誰が入……っ」

ラースが言い終える前にコーリンが後ろからラースを蹴飛ばし、ラースは黒い渦の中に吸い込まれていった。


「さぁ、皆も私に続きなさい。」

そう言ってコーリンは躊躇なく歩いて渦の中に入っていった。


銃士隊の皆を異空間に収納した後、イザークは【瞬間移動】を発動。中央都市からかなり西に行った街に一瞬で着いた。西の方角にアーカンベルグと呼ばれる山岳地帯が見えていた。イザークはその山岳地帯を目指して全速力で飛び立つのだった。


イザークはアーカンベルグ山岳地帯のさらに上方を飛行して敵軍の位置を把握しながら移動していた。

程なくして遥か下方に蟻の行列の様なトリステン軍一行を確認する。


『まだ山岳地帯に入ったばかりか……。思ったより先回りできたな。時間に余裕ができた、先に国境付近の被害状況を確認しておくか。』


イザークは被害にあった村々を巡回し、怪我人や生存者を探したが徒労に終わる。

襲われたすべての集落は等しく皆殺しにあっていたのだ。


イザークはトリステン軍と接触する前にこの惨状を見るべきではなかったと後悔する。

『いや、逆にこれで心の甘さは消えた。妙な情けを掛けずに存分に叩いてやるさ。』


イザークの瞳に冷徹な炎が灯った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。