第十四話 挟撃
オーレン城包囲戦から一日。
イザークが城の天守を吹き飛ばしてから約一時間後、一人の将兵がヘルタベルンの陣幕にやってきた。
名をフロイドという。オーレン指揮下の将軍の一人でエリーザに討取られ将軍筆頭であったラヴァネリ将軍の次席にあたる人物である。
天守爆破の後、徹底抗戦を唱えていたロジンに対してクーデターが起き、奇しくも自らの部下によって人生の幕を引かれたロジンの首を携えての投降であった。
エリーザはイザークに戦後処理まで任せようとしたが断った。イザークは戦後の敵陣営への対応を母に託し、自らはラスターやコーリン達とその様子を見学していた。
イザークはスターク連邦でのヘルタベルン家の立ち位置や周辺貴族達との関係に疎く、下手に判断を下すのは危険だと考えたためである。
軍議の結果オーレン軍の兵卒は解散。将校一時捕虜として投獄、連邦盟主であるスターク家に事の次第を報告の上沙汰を下す事となった。
その後ヘルタベルン軍はスタークからの使者が来るまでこの地に待機することになった。
イザークはスターク家からの使者が来るまで特に何もする事がなかったので、ラスターとコーリンを誘いモンテスタにスターク連邦の歴史やヘルタベルンと周辺国の関係性についての講義を希望した。今後必要になってくる知識である。
コーリンはその辺の知識は一通り熟知していたがもともと根が真面目なので快諾したが、ラスターはいつまでもぶーたれていた。
「何で僕まで付き合わされないといけないんだよ。せっかく父さんの鍛錬から逃れたと思った矢先にさ……。」
ふてくされるラスターにコーリンが冷たく諭す。
「いつまでふてくされてるのですラスター。これは我々ヘルタベルンの将来を担う若手がよくよく知っておくべき知識ですよ。」
「若手ったってコーリン君はもう今年二十五だろ?こんな事より早く旦那さんを見つける方が……。」
そういい終える前にラスターは背中に悪寒を感じて咄嗟にコーリンに向き直った。
そこには黒いオーラを纏って相手を呪い殺さんばかりの表情のコーリンがいた。
「よさんか二人共!家臣たる者が主君たるイザーク様の前で無作法であるぞ!」
モンテスタの一喝を受けてコーリンとラスターは鞭撃たれたかのように背筋を伸ばし恐縮した。
講義中もコーリンの突き刺さる様な殺気を受け続けたラスターが小声でイザークに助けを求めたが、イザークはあえて無視して講義を受け続けた。自業自得である。
一日数時間の講義を受け始め、四日目になっ頃、ヘルタベルンの陣幕に急報を告げる伝令が駆け付けた。
「西の隣国トリステンが我がヘルタベルン領内に侵攻中現在も国境付近の村々を略奪中とのことであります!」
イザーク、ラスター、コーリン、モンテスタが急いでヘルタベルン陣幕の本営に駆け込んだ時、エリーザとビランは既に会議を始めていた。
「モンテスタ、イザークちゃん達への講義ご苦労さまでした。」
「いえ、それより参陣遅れましたる事お許しください。」
「それには及びません、そちらも既に報告は受けていますね?」
「はい。」
一連のやり取りを終えると会議に参加する様に促され、地図の開かれたテーブルに歩み寄った。
「これは……マズイ事になったわね。」
エリーザが眉をひそめた。
「このタイミング……まさかトリステンの野郎ども、オーレンと示し合わせてたんじゃねえか義姉さん?」
ビランがあり得るであろう可能性の一つをエリーザに投げかけた。
「それはあるでしょうけど、この二国はヘルタベルンを挟んで東西にかなりの距離を有します。何かしらの示し合わせがあったとしてもかなり大雑把なものでしょう。それよりもこれからの対応をいかにするかです。事態は急を要するのだから。」
「急を要するのは確かだが……、手の打ちようがねえ。今ヘルタベルンが持ってる兵力のほぼ全てをこの東の国オーレンの奥深くまで連れてきちまってるんだからな……。」
ビランの言に一同が重い沈黙でただ地図に目を落とした。
「手はあるよ。」
静寂に包まれた陣幕の中に一人の声が上がった。
イザーク。その人物こそこの絶体絶命の窮地を打開しうる可能性を秘めた存在であると空間の誰もがそう期待し彼を見やった。
「イザーク、本当かいっ!?」
ラスターが驚きの声をイザークに投げかけた。
「手はある。だけど最善とは言い切れない……。」
「聞きましょう。」
エリーザが即答し、それに従ってイザークが皆に策を提示した。
「……以上が俺が考えた作戦だ。事態は急を要する上に、兵数の大半をここに残していくことになるし、やる以上相手をオーレン以上に完膚なきまでに叩き潰すことになる。個人的には自国が侵犯されている以上容赦する気はないが、進軍中のトリステン軍に対して対話すら許さない方策と言える。やるかやらないかは母さんの判断に委ねるよ。」
そう言ってイザークはエリーザに向き直り、判断を待とうとした。
しかし待つ間もなくエリーザの判断は早かった。
「愚問よイザークちゃん、自国を侵略してきた敵国に情けなど必要ありません。戦争とは騎士と騎士、軍と軍が互いの国の代理として戦うものです。けして民間人を傷つける事などあってはなりません。それを破り真っ先に力なき民に襲い掛かる略奪侵犯など虫にも劣ります。」
エリーザの力強い言の葉にイザークは覚悟を改めた。
「分かりました。上手く敵軍を討てればその後の敵国の領民に対してはよきに計らいます。」
「分かればよしっ。気を付けていってらっしゃい!」
先ほどと変わってにこやかな表情でエリーザがイザークを送り出した。
「行ってきます。ほら、お前も行くぞラスター!」
「ええっ、やっぱり僕もなのおおおぉ!?」
イザークに襟首をつかまれて陣幕外へ引きずられていくラスターと共にコーリンがその後に続いた。




