第十三話 オーレン包囲戦
ヘルタベルン軍はオーレン領の中央都市オーレンまで軍を進めていた。
オーレン領に入り、中央都市までの間に三つの街を経由した。民衆は家の戸や窓を固く閉ざし息をひそめてヘルタベルン軍をやりすごしていた。イザーク達も食糧難に喘ぐ民衆から略奪などする気は毛頭なかったが、かといって侵攻してきた敵国に施しをするほど甘くはなかったので、そのまま通り過ぎるだけにとどめていた。
メルトの戦いから十二日後、ロジンの居城を完全に包囲していた。
ロジンの居城は中央都市の北寄りの丘にあり、南側に商業施設などが並ぶ。イザークはエリーザの許可を得て南側の軍の立ち入り禁止の布告を出し、最低限民衆の生活に支障が出ないよう配慮がなされていた。
ロジンの居城をにはまだ三分の一、役二千五百人程度の兵士が籠城している。
すでに包囲して十日が過ぎている。本来なら兵站が切れた数千将兵を抱えての籠城の場合、肉体的、精神的にも限界がきているはずであった。しかし城からは降伏の兆しさえ見えない。
ヘルタベルン軍の陣幕内で軍議が行われていた。
「城内の挙動がどうにもおかしい。兵糧は何日も前に尽きているはずなのに何の動きもなく、こちらの降伏勧告さえ受け付けない。これは一体……?」
イザークの疑問にエリーザが答える。
「おそらく降伏を具申した将兵をみな処刑して城内で見せしめにしてるのね。」
イザーク、ラスター、コーリンと若い将達がが驚きの表情でエリーザを見た。
「そこまでするだろうか?そんな事をして何の意味がある?状況は何一つ変わらないというのに。」
イザークが反論するが、エリーザには確信があった。
「覚えておきな……いえ、覚えておく価値などないわね。でもそれがロジン=オーレンという男よ。己の欲、面子を何よりも重んじ、その為には何者でも犠牲にできる男なの。昔からそう」
イザークには理解できなかったが、それによって犠牲になるのはその男に付き従った将兵である。
敵に情けをかけるつもりはないがこのままだらだらと敵兵の餓死を待つ気はなかった。
イザークは決断した。
「俺が行ってくる。」
イザークの行動に皆が止めに入った。
「イザーク様が説得に行く必要などありませぬ!どうしてもというならばそれがしを使いにお出しください!」
老将のモンテスタが具申した。
それに対しイザークは目を丸くして皆を見渡した。
「え……?い、いや交渉や説得にいくわけじゃないけど……?」
「では何をしに行くというのですか!?」
陣幕の出入り口を塞ぐモンテスタのさらに前に孫のコーリンが立ちふさがり、問いただした。
「要は敵に内側から城門を開けさせ降伏させればいいのさ。」
イザークの目には僅かに怒りの火が灯っていた。
どうやってそんな事を実現できるのかと祖父と孫娘は目を丸くして呆けているうちにイザークは足早に陣幕を出、城壁に向かって一人歩いて行った。
止めようとするする者達をエリーザが制止した。
「この戦いはイザークちゃんの方策により得た我が領内の富により引き起こされた戦争。そしてイザークちゃんの初陣であり、全体の指揮を執る戦いでもあるの。だからその幕引きも……イザークちゃんを信じて見届けましょう。」
イザークは一人城門に向かって歩み寄る。
既に弓が届く範囲にまで近づいていた。陣幕の外からエリーザを始めとした将兵、一般兵までもがイザークに刮目していた。
ロジンの城壁からイザークに向け何十本もの矢が雨のように降り注いできた。
しかしイザークには当たらない。当たる手前で矢の軌道がすべて捻じ曲げられ明後日の方向に飛んでいく。
イザークの時空魔法、重力操作のなせる業であった。
モンテスタを始めイザークの能力を始めて目の当たりにした者達は何が起きてるのかすら理解できず、額から流れる汗の冷たさのみを感じていた。
おもむろにイザークの体が宙に浮く。城内外からどよめきが起こる。
イザークは飛空術により地上から二十メートル程の高さまで昇り、そして止まった。
そして片手を城最上階、天守めがけてかざす。
その瞬間、一筋のまばゆい閃光が掌から天守めがけ打ち出された。
その閃光は城に当たった瞬間大爆発を引き起こし、その威力はすさまじく爆風でヘルタベルン陣営の陣幕が激しくはためく程であった。
モンテスタやビラン、コーリン、ラースが収まりつつある爆風から目をゆっくり開けると、城の上層部分は跡形もなく吹き飛んでいた。
「し……信じられん……。イザーク、お前……これほどかよ……。」
ビランが目を見開きながらわなわなと武者震いで震えていた。額には大粒の汗がうかんでいる。
エリーザ以外の重臣達はこの戦いでイザークが卓越した知略の持ち主だと言う事は理解できていたが、個人の戦闘力においても桁外れだとおもいしらされたのだった。
「ふふふふふ」
エリーザから笑い声が漏れた。
「エリーザ様、これは……一体……?」
モンテスタは驚愕の表情を崩せないままエリーザに向き直り問いかけた。
「これは……って、見たままよっ?これが時空魔法を使いこなすイザークちゃんの本当の実力。知略だけだとおもった?」
エリーザの悪戯気な答えにビランがすぐさま反応する。
「いや……。それにしたってこれは……いくら何でもデタラメすぎだろ義姉さん!?」
「そうかしら?そういえばみんなには言い忘れてたけど、イザークちゃんのレベルは今80よ?」
「「「「80!!!!?」」」」
エリーザを除く四人の重臣が驚きのあまり目を大きく見開き、綺麗にハモって復唱した。
猛将といわれるビランのレベルが38であり、諸外国を含め一握りの英雄と呼ばれる者しか到達できない人類の最高到達レベルを持つエリーザがレベル50である。
それをはるかに超える力を若干十五歳の少年に目の当たりにされ、みな思考停止に陥っていた。
「全く、まだまだ子供だと思っていたのにこんなに早く追い抜かれちゃってママ悲しいわ。」
嬉しそうでもあり、悔しそうでもある、やれやれといった表情でエリーザがつぶやいた。
それから数十分後、場内からロジンの首を携えたオーレン兵が降伏の使者としてヘルタベルンの陣幕に訪れたのであった。




