第七話:消えた新米と、異常な牙
穏やかな日差しの中、街道の安全確認と魔獣駆除の仕事を終えた俺は、夕暮れ時の冒険者ギルドへと足を運んでいた。
ギルドの自動扉をくぐり、いつものようにカウンターへ向かう。そこには、いつものように眼鏡をキュッと持ち上げる受付嬢・マリアの姿があった。
「お疲れ様です、シードさん。今日の依頼も無事に完了したようですね」 「ああ、おかげさまでな。周辺の安全確認と、小型魔獣の処理は済ませてきた。これが報告書と討伐の証拠だ」
手際よく書類と素材を差し出すと、マリアは確認しながら小さく頷いた。 「相変わらず確実なお仕事ですね。報酬の金貨を処理しておきます」
よし、これで今日の稼ぎもバッチリだ。宿に戻って温かいスープでも飲もうと考えながら、俺は掲示板のほうへ目を向け、次の日課となる新しい依頼を探そうとした。
その時だった。
「――シードさん、少々お待ちいただけますか?」
背後から、普段の冷静なマリアにしては少し焦りの混じった声で呼び止められた。 振り返ると、彼女は眉間に微かにシワを寄せ、真剣な面持ちでこちらを見つめていた。
「どうかしたのか?」 「実は……先ほど、ギルドに深刻な連絡が入ったんです」
マリアはカウンターから身を乗り出すようにして続けた。 「今日、あなたが巡回していたのとは別の街道区画に向かった『若手の冒険者パーティー』が、予定の時間を過ぎても戻ってこないのです。連絡を受けた先輩パーティーが捜索に向かっていますが、まだ確実な安否は確認できていません」
「新米が戻ってこない……?」
脳裏によぎったのは、今日、街道の木陰で助けたあの少年と少女の顔だった。まさか、あの後で別の魔獣に襲われたのか。あるいは、もっと厄介なトラブルに巻き込まれたか。
「……わかりました。ちょうど次の依頼を探していたところですし、俺もその捜索に協力しましょう」
俺がそう申し出ると、マリアはホッとしたような、しかしすぐに複雑そうな表情を浮かべた。 「ありがとうございます、シードさん。あなたに頼るのは心苦しいですが……お願いします。十分にお気をつけください」
ギルドを出た俺は、足早に日中の巡回ルートから少し外れた、うっそうとした別の街道へと向かった。 辺りはすでに夕闇に包まれ始め、木々の隙間から吹き抜ける風が妙に肌寒く感じられる。
しばらく足跡や気配を探りながら進むと、開けた街道の脇の茂みが激しく踏み荒らされているのを見つけた。 地面には生々しい引きずり痕と、まだ新しい血の匂いが漂っている。
「……この先か」
警戒を強めながら足を踏み入れた瞬間、異様な気配が肌を刺した。 月の光が照らし出したその場所で、俺は思わず足を止めて息を呑んだ。
そこに倒れていたのは――巨大な猪型の魔獣だった。 いや、違う。サイズがおかしい。通常の猪型魔獣の、優に倍近くはある巨体。そして何より、その分厚い顎の周囲には、禍々しい輝きを放つ「牙が4本」生えていた。
「おいおい……冗談だろ」
冷や汗が背中を伝う。 こんな異常なサイズの上位個体が、なぜこんな人里離れていない街道の近くに……?
俺がその巨体に近づき、思わず呟いた。
「こんなサイズ、おかしいぞ……」
その刹那、背後の暗がりから、さらに巨大な殺意の波が俺を包み込んだ。




