第六話:新たな出会いと、謙虚な歩み
かつての仲間たち――「暁の明星」を圧倒的な背中で置き去りにしたあと、俺は喧騒から離れた小さな村の食堂に足を運んでいた。
「ふぅ……」
木製の椅子に腰を下ろし、深く息を吐き出す。 さっきはレオンたちの前でつい冷ややかな態度をとってしまったが、正直なところ、彼らと無駄な小競り合いをするつもりなんて毛頭なかった。あの時見せた威圧感も、レベルが跳ね上がったせいで魔力のコントロールがまだ完全に馴染んでいないからだ。調子に乗って調子こいた態度をとっていると、いつか足元をすくわれる。
「お待たせしましたー。名物の山菜とキノコのスープに、焼き立ての黒パンだよ」
気さくな笑顔を浮かべた村の食堂の女将さんが、湯気の立つ素朴な料理をテーブルに並べてくれた。 「おっ、美味しそうだな。ありがとうございます」 「はいよ。お兄さん、立派な大楯を背負ってるけど、遠くから来た冒険者かい? この辺の森は最近魔獣が荒いから、気をつけるんだよ」 「はい、ご親切にありがとうございます。気をつけます」
丁寧に頭を下げてスープを口に運ぶ。優しい塩気とキノコの旨味が、張り詰めていた神経を心地よくほぐしてくれた。 レベル58という規格外の力を手に入れたとはいえ、俺の本質は元サラリーマンだ。奢ることなく、地に足をつけて一歩ずつ進まなければならない。あの傲慢なレオンたちのようには絶対にならない――そう心に誓いながら、静かに食事を平らげた。
宿を確保し、部屋で翌日の予定を確認する。 次の目的地は、村の近くにある古い街道の安全確保と、周辺に現れるという中位魔獣の駆除だ。ギルドでの一件以来、俺の名前は少しずつ知れ渡り始めているが、調子に乗って派手な動きをするつもりはない。依頼は着実にこなし、必要な素材を集め、地道に実力を自分のものにしていく。
翌朝、夜明けとともに村を出発した俺は、朝露に濡れる街道を進んでいた。 しばらく歩くと、前方の木陰から微かな物音が聞こえてきた。
ガサガサ……ッ!
「……む?」
足を止め、大楯をそっと構えて気配を探る。 飛び出してきたのは、魔獣ではなく、ボロボロの装備をまとった若い新米の冒険者――少年と少女のペアだった。二人は猪型の魔獣に追いつめられ、怯えた表情で尻餅をついている。
「あ、危ないっ……!」
少女の悲鳴を聞いた瞬間、身体が自然と動いていた。 「――そこまでだ」
ドンッ! と重い足音とともに魔獣の正面に割り込み、背負っていた大楯を地面に叩きつける。 突進してきた猪型の魔獣が、俺の大楯に激突した。
ガァンッ!!
衝撃が走るが、今の俺の身体とスキルにとっては赤子の手をひねるようなものだ。 「っ……ふっ!」
軽く息を吐きながら『シールドバッシュ』の要領で魔獣の巨体を押し返すと、魔獣はバランスを崩して派手にひっくり返った。そのまま起き上がる隙を与えず、最小限の力でトドメのカウンターを叩き込む。魔獣は一撃で沈黙した。
静まり返った街道。 後ろを振り返ると、新米の冒険者の二人が、あんぐりと口を開けて俺を見つめていた。
「あ、あの……助けていただいたのですか……?」 「怪我はないか? こういう街道の近くでも、油断すると危ないから気をつけろよ」
新米の二人に優しい口調で声をかけ、ポーションを手渡す。 「ひっ、すごいです……一撃で……! あなた、噂の……!」 「いや、大したことないさ。俺も昔は全然ダメだったからな。お互い、無事で何よりだ」
謙虚に笑いかけ、名前も名乗らずにその場を後にする。 調子に乗らず、驕らず、ただ自分のやるべきことをやる。強くなった今だからこそ、あの日の悔しさと、無力だった自分を忘れないようにしよう。
――俺の静かで、しかし確実な冒険者ライフは、今日もこうして平穏(?)に続いていくのだった。




