第十八話:特級の重みと、狂い始めたプライド
「い、一体なんだよ……さっきからみんなして俺たちのほうをジロジロ見て……!」
イライラとした調子で悪態をついた戦士のガルドが、周囲の視線に気づいて声を荒らげた。 その時、魔法使いのアイリスが、カウンターの脇に佇む黒い影にふと視線を留めた。全身を希少種オーガの重厚な防具で包み、背中には異様な存在感を放つ漆黒の魔楯『オーガ・ガーディアン』を背負った男。
「あっ……れ……?」
アイリスの顔から血の気が引いていく。それに気づいたリーダーのレオンも、怪訝な顔をしながら振り返り、そして――凍りついた。
「なっ……!? シード……だと……!?」
レオンの声が、ギルド内に響き渡る。 かつて自分たちの荷物持ちをし、足手まといだと罵って追放したはずの男。その男が、今や自分たちよりも遥かに上等な、見たこともないほどの最高級装備を纏って堂々と立っている。
プライドを踏みにじられたような激しい動揺と屈辱が、レオンの顔を歪ませた。
「ふざけやがるな……! お前、その立派な装備はなんだ! 俺たちを出し抜いて、隠し財産でも持ち逃げしてたのかよ! おい、仲間を裏切って肥やしを溜め込んだ卑怯者が、なんでこんなところに平然と顔を出してやがるっ……!」
言いがかりをつけ、わめき散らすレオン。 しかし、周囲の冒険者たちは冷ややかな目で彼らを見下ろすだけで、誰も同調する者はいなかった。
「やかましいわ、ボケナスどもが」
低く、しかし響き渡る声とともに、奥からギルド長・バルトロがずっしりと歩み出してきた。バルトロはレオンたちを鋭い隻眼で睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「勘違いするな。その装備はな、俺がシードに『特級冒険者だけが使える工房』を紹介して作らせたものだ。……この意味が、お前らにわかるか?」
バルトロの言葉に、レオンは眉をひそめ、ガルドやアイリスもきょとんとした顔をした。 当の本人であるシードさえも、バルトロの言葉の真意を計りかねて心の中で「……ん?」と首を傾げている。
しかし、周囲のベテラン冒険者たちの間では、ざわめきが広がっていた。
「やっぱりか……」 「マジかよ、この国の騎士団長に続いて二人目だぞ……!」 「あんな若い奴が、ついに『特級』に認定されたのかよ……」
どよめく周囲の声を背に受け、バルトロは声高らかに宣言した。
「シードは本日をもって、我がギルドが認める『特級冒険者』に昇格する!」
その言葉の重みに、レオンたちは息を呑んだ。 特級――。それは一国の軍勢にも匹敵し、数多の国々から直接指名が飛ぶような、この世界の頂点に君臨する者だけに与えられる最高位の称号。 一方、自分たちはといえば、中位エリアで小型魔獣を狩るのがやっとの、いまだにB級止まりのパーティーだ。格の違いどころか、次元そのものが違っていた。
さらに、カウンターの向こうで冷ややかな視線を送っていた受付嬢のマリアが、淡々とした声で追い打ちをかけた。
「それと、『暁の明星』の皆様にお知らせです。最近の連続した任務での成果不足およびパーティーの統率不良を鑑み、ギルド評議会の決定により、本日付けで……あなたたちのランクを『C級への降格』とする通知が出ています」
「なっ……ふざけんなっ!!」
レオンの顔から完全に理性が吹き飛んだ。 B級からC級への降格。そして、自分たちが文字通り泥を這う思いで這い上がろうとしている横で、かつての「荷物持ち」が特級へと登り詰めていたという現実。
屈辱と怒りで全身を震わせたレオンは、腰の剣に手をかけ、血走り目をシードへと向けた。
「ふざけやがるな……! ふざけんなよシードォッ!!」 レオンは怒号を上げながら剣を抜き放ち、そのままシードへと突進した。 「お前のような役立たずが特級だと……!? 認めねぇ、認められるか! おい、シード! 俺と決闘しろ!! 今すぐその気取った面を叩き割ってやるっ……!」
狂乱したレオンの刃が、無謀にもシードへと迫る。 果たして、この慢心しきった元リーダーの愚行の結末やいかに――。




