第十九話:圧倒的な格差と、冷徹な分析
「……決闘か。いいだろう、受けてやる」
激昂し、剣を剥き出しにして迫るレオンに対し、シードは驚くほど落ち着いた低い声で答えた。怒りや動揺の色は微塵もなく、その瞳にはかつての気弱なサラリーマンの面影は一切なかった。ただ静かに、圧倒的な実力差を理解した者の冷徹な余裕だけが宿っている。
「おい、マジかよ……」 「相手はあの特級だぞ。レオンの野郎、正気かよ……」
周囲の冒険者たちがどよめきながら、面白半分、あるいは呆れたような目を向けながら、地下の訓練場へと移動する人の波ができた。
地下の広大な石造りの訓練場。 その中央で、レオンとシードが向かい合って対峙した。
「ふざけやがって……! 運よくいい装備を手に入れたからって、調子に乗りやがってぇっ!!」
レオンは金切り声を上げながら、怒りに任せて無茶苦茶な乱撃を叩き込んできた。剣閃が乱れ飛び、鋭い斬撃の嵐がシードへと殺到する。 だが――。
カーン! カンッ! ガァンッ!!
シードは一歩も引かず、背負っていた漆黒の魔楯『オーガ・ガーディアン』を軽く構えただけだった。レオンの必死の連撃は、まるで子供が木の枝で叩いているかのように、すべて完璧に受け止められ、いなされていく。隙だらけの軌道は、シードの卓越した戦闘センスによって難なくすべて捌かれてしまった。
「はぁ、はぁっ……! な、なんでだ……! 当たらねぇ……っ!」
息を切らせるレオンの動きを、シードは冷ややかな目で値踏みするように見つめ、淡々と口を開いた。
「レオン。お前の悪い癖は、相変わらず自分の実力を客観視できないことだ」 「なっ……なにを……!」 「お前はリーダーでありながら戦術眼がゼロだ。アイリスの魔法の射線も考えず突撃し、ガルドの力任せの我流をいなしもせず、リネットの索敵報告も気分で無視する。パーティーが崩壊したのは俺が抜けたからじゃない。お前自身の指導力のなさが原因だ」
図星を突かれたレオンの顔が、怒りと屈辱で真っ赤に染まる。 「だ、黙れ……! 黙れ黙れ黙れぇっ!! お前ごときに何がわかる!」
怒号とともに、レオンは持てるすべての魔力を全開にした。 「うおぉぉぉおっ! スキル発動――『身体強化』、『スラッシュ』ッ!!」
レオンの全身が闘気で包まれ、渾身の力を込めた必殺の縦斬りがシードの頭上から容赦なく振り下ろされる。かつてのパーティーなら、この一撃を避けるか、シードが身を挺して受け止めるしかなかった技だ。
しかし、シードは動じない。 今のシードにとって、レベル82の肉体からすれば、レオンの全力攻撃などスローモーションのように遅かった。
(……手加減、しとくか)
シードはほんの1割程度の力だけを右腕に込め、ただ静かに、最小限の動作で魔楯を突き出した。
ガァンッ!!!
激しい衝撃音とともに、レオンの必殺の『スラッシュ』は、一瞬で完全に相殺された。いや、それどころか、シードの楯から放たれた圧倒的な反発力が、レオンの身体ごと剣を丸ごと盛大に弾き飛ばした。
「ぐわぁっ……!?」
派手な音を立てて、レオンは地面を何回転も転がり、訓練場の端の壁に激しく激突して崩れ落ちた。
「がはっ……!」
起き上がろうとするが、手元の剣は折れ、全身の気持が完全にへし折られている。 レオンは信じられないものを見る目で目を見開き、悔し涙と混じった絶望の表情で叫んだ。
「な、舐めてるのか……! なんでだ……お前ごときが……! 本気でこいよ、このクソ野郎……っ!」




