第十七話:新たな通り名と、すれ違う背中
伝説の鍛冶師ドナトの手によって生み出された漆黒の魔楯『オーガ・ガーディアン』、そして希少種オーガの強靭な素材から仕立てられた重厚な防具一式。それらを身にまとった俺は、かつてとは見違えるほど洗練された圧倒的な風格を纏い、再び冒険者ギルドの扉をくぐった。
俺が足を踏み入れた瞬間、ギルド内の空気が一変した。 ガヤガヤと騒がしかった酒場スペースが嘘のように静まり返り、あちこちからヒソヒソと気味の悪いほどの小声が聞こえてくる。
「おい、見ろよあれ……噂の……」 「間違いない、あの漆黒の巨盾……オーガを単身で屠ったっていう……」 「もう『不遇のゴミ楯』なんて呼ぶ奴は誰もいねぇよ……。今のあいつの通り名は……『鬼神の盾』だ……!」
かつては「足手まとい」「荷物持ち」と蔑みの目で見ていた連中が、今は畏敬と畏怖の念を複雑に混じらせた視線を俺に向けている。 その変化を内心で冷ややかに鼻であしらいながら、俺は紹介状を書いてくれた恩人に礼を言うため、まっすぐカウンターの奥へと向かった。
「ギルド長、最高の工房を紹介してくれて助かったおかげで、最高の相棒が手に入ったよ」
そう言って、背中の『オーガ・ガーディアン』を軽く叩いて見せると、隻眼の巨漢――バルトロは満足そうに豪快に笑った。 「おう、見違えたなシード! その気迫、ドナトの野郎もいい仕事をしたらしい。お前なら、これからどんな修羅場が来ようと負けやしないさ」
バルトロと今後の依頼について軽く言葉を交わしている、まさにその時だった。
ガチャリ!
ギルドの重い木製扉が荒々しく押し開けられた。 入ってきたのは、見慣れた4人組――かつて俺をパーティーから追放した「暁の明星」の面々だった。
だが、その姿は見る影もない。 リーダーのレオンは鎧がひび割れ、魔法使いのアイリスは衣服が煤け、戦士のガルドはあちこちに包帯を巻いている。レンジャーのリネットに至っては、弓の弦が切れたままボロボロの足取りで引きずっていた。 彼らは、中位ダンジョンのごく浅い層で手に入れたであろう、小型の魔獣の剥ぎ取り素材をようやくの思いで抱えていた。
「はぁ、はぁ……くそっ、やっと戻ったぞ……!」 レオンが顔を真っ黒にしながら、いかにも「大仕事をやり遂げた」と言わばかりの意気揚々とした態度でカウンターへ詰め寄る。
「おい、マリア! 見ろよこれ! 中位エリアで小型魔獣の群れを俺たちが華麗に狩ってきたんだ! 査定急ぎな!」
かつては俺をこき使い、自分たちこそがこのギルドの花形だと信じて疑わなかった男の、あまりに痛々しいドヤ顔。 しかし、対応する受付嬢のマリアの目は冷ややかだった。彼女はカウンターの隅に立つ俺と、ボロボロのレオンたちを交互に見比べ、小さく溜息をついた。
レオンたちは、まだ周囲の異様な静けさに気づいていない。 自分たちに向けられているのが、賞賛の視線ではなく「なんだあいつら、まだそんな雑魚をドヤ顔で持ってきてるのか……」というあきれたような憐れみの視線であることにすら、微塵も気づいていなかった。




