第十二話:喧騒の置き土産
新米の冒険者二人を無事に村まで送り届け、その足で夜更けの冒険者ギルドへと向かった。 扉を開けると、まだ帰還していない仲間を心配する冒険者や、夜通しで受付業務に追われる職員たちで、昼間とは違うピリついた空気が漂っていた。
そんな中、俺がカウンターに歩み寄ると、徹夜の準備をしていたのか疲労の色を隠せない受付嬢のマリアが顔を上げた。
「あ……シードさん。無事に戻られたのですね。新米パーティーの行方は……?」 「ああ、無事に保護して連れてきた。怪我もない」
俺の言葉に、マリアは心の底から安堵したように胸を撫で下ろした。 「よかった……! 本当にありがとうございます。捜索隊を出そうとしていたところだったんです」
だが、俺の用事はそれだけではなかった。 「それともう一つ報告だ。街道の巡回中、ちょっと厄介なトラブルに巻き込まれてな」 「トラブル、ですか?」
マリアが首を傾げたところで、俺は淡々と言葉を続けた。 「街道の近くで、変な牙が4本ある巨大な猪型魔獣を見つけた。それとな、その近くで……希少種のオーガに遭遇して、一応そいつらも倒してきた」
静かに告げられたその言葉の意味を、マリアが理解するまでに数秒の沈黙が必要だった。 「……え?」 「だから、牙が4本の猪と、希少種のオーガだ。まだ現場の森に放置してあるから、ギルドの回収班を向かわせてくれ。俺一人じゃ持ち帰れなかったんでね」
その瞬間、マリアの表情が完全に凍りついた。 そして、その報告が周囲にいた数人の古株の冒険者の耳にも届いた。
「……おい、今何つった……?」 「オーガの希少種だと……? そんなのこの辺の街道に出るわけが……!」 「嘘だろ、あの大楯使いのシードがまた化け物を……!?」
静まり返っていたギルド内が、次の瞬間、爆発的な喧騒に包まれた。 「おいおいおい! 嘘だろ!? オーガの希少種なんて、討伐ランクA以上のパーティー案件だぞ!」 「それをまた一人で……!? あの日、クビになったばかりの奴が何やってんだよ!」
マリアは椅子からガタッと立ち上がり、眼鏡を落としそうになりながら俺の顔を真剣な目で見つめた。 「し、シードさん……! それ、本当なんですか!? 冗談ですよね……!?」 「冗談を言う気力があったら、今すぐベッドで寝てるさ。現場の場所は地図に印をつけておくから、回収よろしく頼む」
これ以上ここに長居して、あれこれ詮索されるのはごめんだった。レベル82の反動は抜けたものの、精神的な疲労はさすがにピークに達している。
「今日はもう疲れた、もう休む。明日また来るよ」
それだけ言い残すと、俺は驚愕の渦に包まれるギルドの喧騒を背にして、カウンターを離れた。 背後からマリアの「ちょ、ちょっとシードさん――!?」といううわずった声が聞こえたが、振り返ることもせず、そのままギルドの扉を押し開けて夜の街へと踏み出す。
連日の激闘と、予想外のレベル急上昇。 頭を巡るざわざわした雑音を振り払い、俺は泥のように眠るため、宿への道を急ぐのだった。




