第十一話:目覚めと、少女の涙
「…………お……ぶ……すか……」
遠くから、霞むような声が聞こえる。 心地よいまどろみの中だったが、その声は徐々に輪郭を帯び、切実な響きを伴って俺の意識を揺り起こした。
「しっかりしてくださいっ! 大丈夫ですか――!!」
バッと、跳ね起きるように瞼を開いた。 視界に飛び込んできたのは、夜空の星と、涙を浮かべながら必死に俺の顔を覗き込んでいる少女の顔だった。昼間、街道の木陰で助けた新米の冒険者パーティーの少女だ。その傍らでは、同じく青い顔をした少年の仲間が、ハラハラとしながらこちらを見守っている。
「……ここは……?」
掠れた声を出すと、全身に走るはずの激痛が……嘘のように消え去っていた。 あれほど血管が破裂しそうだった反動や筋肉の悲鳴はすっかり影を潜め、むしろレベル82に到達した肉体は、かつてないほど清々しく、底知れないエネルギーに満ち溢れている。
「よかったぁ……! 急に大木が折れるようなすごい音がして、見に来たらあなたが倒れてて……!」 少女が安心したようにポロポロと涙をこぼす。
どうやら俺が気を失っていたのは、体感ではほんの数秒のようだったが、実際には10分ほど経っていたらしい。 「君たち……無事だったのか」 俺がそう呟くと、少年が申し訳なさそうに頭を下げた。 「はい。僕たちが魔獣に追われて逃げ込んでいた時に、この化け物に遭遇して……隠れるのが精一杯で、何もできなかったんです。そしたら、あなたが……」
少年の視線の先に、視線を向ける。 そこには、先ほど俺が『シールドバッシュ』で叩き伏せた希少種オーガが、無残に地面にめり込んだまま動かなくなっていた。周囲の地面はすり鉢状にえぐれ、凄まじい戦闘の痕跡が生々しく残っている。 これを一人で、しかも防戦の末に叩き伏せたのだと知ったら、彼らはどう思うだろうか。
「……怪我はないか? なら、よかった」 俺は立ち上がり、砂埃を払う。すっかり回復した身体で軽くストレッチをすると、驚くほど軽快に動いた。 「ほら、遅くなるとギルドや仲間に心配をかける。村へ戻ろう」
俺が優しく声をかけると、新米の二人は安心したような、そして圧倒されたような複雑な表情を浮かべながら、こくんと大きく頷いた。
オーガの討伐証拠となる魔石や素材は、あとでこっそり回収するか、あるいは明日にでもギルドに回収を頼めばいい。今はまず、この新米たちを無事に送り届けることが最優先だ。
静まり返った夜の街道を、二人の冒険者を護衛しながら歩き出す。 背中には愛用の大楯。 レベル82へと跳ね上がった新たな力と、確かな温もりを感じながら、俺たちはゆっくりと帰路につくのだった――。




