第十話:完全なる合致と、昏睡の果て
オーガが全身の筋肉を膨らませ、すべてを粉砕せんとする最大・最強の豪腕を振りかぶった。 その刹那、バラバラだったすべての歯車が、音を立てて完全に噛み合った。
レベル58の膨大な肉体、超加速した脳の反応速度、そして『逆境の守護』による極限の知覚。それらすべてがひとつに溶け合い、俺の身体の隅々まで熱い魔力が一気に駆け巡る。 沸騰するようなエネルギーが右腕を伝い、今や眩い光を放つ大楯へと一点集中した。
遅い。 スローモーションの世界で、オーガの拳が軌道を描く姿がありありと見える。 隙だらけの巨体の中心点――そこが絶対の死角だった。
「――シーールドッバッッシュッ!!ッ!」
魂の底から絞り出した咆哮とともに、俺は溜め込んだすべての魔力と体重を乗せた一撃を、真正面から叩き込んだ。
ガァンッ!!! と、世界が割れるような凄まじい衝撃音が夜の静寂を木端微塵に打ち砕く。
それはもはや技の領域ではなかった。 オーガの繰り出した巨大な拳ごと、俺の大楯がその硬質な腕を押し潰し、そのまま容赦なく垂直に叩き落としたのだ。
ドォォォンッ!!!!!
大地が激しく揺れ動き、凄まじい衝撃波が周囲を薙ぎ払う。 オーガの巨体は地面へと叩きつけられ、その衝撃であっという間に半径10メートルほどの地面がすり鉢状にぐしゃりと沈み込んだ。舞い上がった砂煙が夜空を黒く染め上げる。
「はぁ……はぁ……っ!」
激しい息を吐き出しながら、俺はその場で大楯を杖代わりにして膝をついた。 砂煙が晴れていく。目の前で、かつて「図鑑でしか見たことない」と言わしめた希少種オーガは、白目を剥き、全身の骨をきれいに粉砕された状態でピクリとも動かなくなっていた。
勝った――。 安堵の息を漏らしたその瞬間、視界の端で光のウィンドウが激しく明滅した。
『討伐完了:オーガ・レジェンド(希少種)』 『経験値を取得しました』 『レベルが上昇しました』 『レベル58 → レベル82に上がりました』
「れ、れべる、はちにじゅう……!?」
驚愕の声を上げようとしたが、次の瞬間、全身を形容しがたい激痛が襲った。 短期間でのあまりにも急激なレベル上昇と、肉体がその強化に追いついていない反動が、一気に神経を焼き焦がしていく。
「ぐっ……あ……」
血管が破裂しそうなほどの激痛に耐えきれず、俺の視界が急速に狭まっていく。 支えていたはずの大楯が手から滑り落ち、硬い地面に音を立てて転がった。
意識が、暗い底へと沈んでいく。 次から次へと押し寄せる情報の奔流の中で、俺の身体はそのまま冷たい地面へと崩れ落ち、深い闇の中へと意識を手放した――。




