第九話:激突の連撃、噛み合う歯車
『逆境の守護』の覚醒により、世界が再び静止したようなスローモーションへと落ち込んでいく。
先ほどのような、ただ一撃で全てを吹き飛ばすワンパンの余裕などなかった。 目の前にそびえる希少種オーガは、桁違いの耐久力と敏捷性を誇る。あの猪型魔獣の時とは格が違う。このスローモーションの中でも、オーガの繰り出す拳は凄まじい軌跡を描いて容赦なく迫っていた。
ガァンッ!!
激しい金属音と衝撃波が夜の街道を切り裂く。 俺の構えた大楯と、オーガの巨大な拳がぶつかり合う。周囲から見れば、それはもはや目にも留まらぬ超高速の殴り合いだった。 傍目から見れば、圧倒的な巨体のオーガが凄まじい連撃を浴びせ続け、小柄な大楯使いがその猛攻を辛うじて紙一重で弾き返しているように映るだろう。だが、その内実は一瞬の油断も許されない極限の攻防戦だった。
(重い……! 流石に希少種だ、一撃ごとの反動が内臓を揺らす……っ!)
以前の森での戦いのように、『シールドバッシュ』の単発一撃で相手を吹き飛ばすことはできない。弾いても、オーガはすぐに態勢を立て直し、次の巨腕を叩き込んでくる。 だが、俺の身体に異変が起きていた。
(――あれ?)
弾くたびに、全身を巡る魔力の巡りが加速していく。 レベル58という規格外の肉体。その強大なパワーと脳の圧倒的な反応速度、そして『逆境の守護』による知覚拡張。最初はそれぞれのシステムがバラバラに軋んでいたが、極限の死闘の中で、それらが急速に馴染み、噛み合っていくのがわかる。
最初のうちは防戦一方で精一杯だったはずの俺の動きが、一合、二合と打ち合うたびに、わずかながら、しかし確実に鋭さを増していく。
踏み込む足の角度が最適化され、『シールドバッシュ』の威力を乗せるタイミングがコンマ数秒単位で研ぎ澄まされていく。 オーガの赤い目に、初めて「焦り」の色が浮かんだ。目の前の人間が、戦えば戦うほどに化けていくことに本能的な恐怖を抱いたのだろう。
オーガが全身の力を込め、すべてを粉砕せんとする最後にして最大の豪腕を振りかぶった。 その瞬間、俺の脳内で、バラバラだったすべての歯車が完全に噛み合った。




