表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2分でわかる!殺人犯  作者: 幸円一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/5

第4話 真実は、いつもひとつ!(必死)

 証拠を見つけなければならない。いや、正確には違う。

 俺自身が見つける必要はない。寛治に、隠した証拠のことを思い出させればいいのだ。何しろ、こちらには思考マインド盗聴ワイヤタップがある。犯人の頭の中へ直接アクセスできるのに、畳へ這いつくばって髪の毛や指紋を探す必要などない。

 俺は左手首のスマートウォッチを確認した。能力を発動してから、すでに45分近くが経過している。残り時間は、およそ15分。やべえ。


 殺人犯は、どうすれば自分から証拠のことを考えてくれるだろう。

 俺は畳に横たわる龍二の遺体へ目を向けた。腹部に広がった赤黒い染み。そのそばに座り込み、京香さんが泣いている。

 龍二の遺体に縋りついたせいだろう。京香さんの浴衣も、一部が赤く染まっていた。それを見て、思いついた。包丁で人を刺したのなら、犯人の服にも血がついた可能性がある。その線で攻めてみようか。


「そういえば……」

 俺は、なるべく今思いついたような顔で口を開いた。

「犯人って、返り血を浴びてるんじゃないですか?」

 広間にいる全員が、自分の服へ視線を落とした。

 俺だけは、寛治の心へ意識を合わせる。


【大丈夫だ。返り血を浴びた割烹着は、包丁と一緒に隣の空き部屋の押し入れに隠してある】


 イェーイ!おじさんチョロすぎ✌(^^)


 いや待て、そんな簡単な話じゃない。ここで俺が、


「そうだ! 隣の部屋の押し入れが怪しい!」


 などと叫んだら、あまりにも怪しい。返り血の話をした直後に、隠し場所まで一発で当てる大学生。多分みんなはヤラセを疑う。隠しカメラを探し始める。


「返り血って……」

 佑梨が、自分の服を見下ろした。

「でも、みんなの服には血なんてついてないよね?」

「今着てる服にはね」

 茜が言った。

「犯人が、犯行のあとに着替えた可能性もあるんじゃない?」

 ありがとう、茜。今、ちょっとだけ剛にはもったいないと思った。


「夕食のあと、服を着替えた人ってどのくらいいます?」

 俺は、寛治だけを狙っていると思われないよう、広間にいる全員を見回した。

「私は着替えました」

 最初に答えたのは京香さんだった。

「ビールをかけられたから、文代さんから借りた浴衣に……」

「私は、このままです」

 文代さんが自分の作務衣へ視線を落とす。

 実子ちゃんも、夕食時から文代さんと同じ薄茶色の作務衣を着ている。

 俺たち四人も着替えていない。民宿の浴衣のままだ。


 そして、寛治だけが、夕食時とは違う服を着ていた。

 今の寛治は、灰色の長袖シャツに黒いズボン姿だ。夕食の席では、たしか白い割烹着を着て給仕をしていた。


「磯部さんは、着替えてますよね?」

 寛治の目が、わずかに細くなった。


【また俺か。こいつ、本当に何なんだ】


 やばい。また決め打ちしすぎたか。


「船着き場から戻ったとき、雨で濡れていましたからね。着替えるのは当然でしょう」

 寛治は平静を装って答えた。

「夕食のときに着ていた、白い割烹着は?」

「……雨合羽を着る前に脱ぎましたよ」


【まずい。この話をこれ以上させるな】


 嘘だ。そう言えないのがもどかしい。


「そうだったかしら?」

 文代さんが、不思議そうに首を傾げた。

「あなた、割烹着を着たまま雨合羽を羽織ってなかった?」

「……細かいことまでは覚えていない」

「叔父さん、割烹着だったよ」

 実子ちゃんが口を挟んだ。

「出ていくときに見たし」

 グッジョブ実子ちゃん!!


「じゃあ、その割烹着は今どこにあるんですか?」

「知りませんよ。脱いだあと、どこかへ置いたんでしょう」

「自分が着てた服なのに?」

「こんな騒ぎの中です。いちいち覚えていません」

 寛治の声に、苛立ちが混じり始めていた。


【大丈夫だ。押し入れさえ調べられなければ問題ない】


 その押し入れを、どうやって自然に調べるか考えてるんです。


「もし犯人が返り血を浴びていたとしたら、その服を自分の部屋まで持って帰りますかね?」

 俺は独り言のように呟いた。

「どういう意味?」

 佑梨が聞く。

「血のついた服を持って廊下を歩いたら、誰かに見られるかもしれない。途中で血が垂れちゃう可能性もある」

「じゃあ、どこか近くに隠したってこと?」

「可能性はあると思う」

 よし。

 ここまでは自然だ。


 自然だよね?


「文代さん。広間のすぐ近くで、服みたいなものを隠せそうな場所ってありますか?」

「近くで……」

 文代さんは少し考え、広間の右手にある襖へ目を向けた。

「隣の部屋は、今は使っていません。押し入れもありますけど……」

 そこです!百点満点!


「見てみましょう」

 俺は言った。寛治の顔が、初めてはっきりと強張った。


【まずい】

「待ってください」


 寛治が声を上げる。

「警察が来るまで、現場には触れない方がいいんじゃないでしょうか」

「いや、現場はここ。隣室の押し入れは現場じゃないです」

 俺が指摘すると、寛治は口を閉じた。

「それに、みんなで一緒に見るなら問題ないんじゃないですか?」

「ですが……」

「何もなければ、磯部さんの疑いも晴れますよ」

 あるけどね。


「そうね」

 文代さんが頷いた。

「確認するだけなら……ね?」

 寛治は何も言わなかった。


 俺たちは全員で隣の部屋へ移動した。

 十畳ほどの和室だった。元々は、広間との間にある襖を外し、ひと続きの大宴会場として使っていたのだろう。部屋の隅には畳んだ座卓が重ねられ、壁際には古い旅館でよく見る木製の座椅子が並んでいる。


 部屋の奥には、二枚の襖で閉じられた押し入れがあった。


「開けますよ」

 剛が押し入れの前へ立つ。

「待っ――」

 寛治が声を上げたが、もう遅い。

 剛が襖を開けた。

 上段には予備の布団が積まれ、下段には古い座布団や段ボール箱が押し込まれている。一見したところ、怪しいものはない。


「あれ?何もないな」

 剛が首を傾げた。


【上段右奥、布団と壁の隙間だ。みつからないでくれ】


 上の段の右奥、布団と壁の隙間だってさ。


「何もないぞ?」

「あるってば」

 やべ。声に出ちゃった。


【やはり、こいつは何かおかしい】


 寛治の思考が、俺へ向いた。

「いや、犯人が隠すなら手前には置かないかなって……」

 我ながら苦しい言い訳である。

 剛は特に疑問を持たなかったらしく、押し入れへ上半身を突っ込んだ。


「……ん?」

 剛が、押し入れの奥から白い布の塊を引っ張り出した。

 いや、白くない。べったりと血に染まった、白い割烹着だった。


 胸元には、赤い糸で小さく『磯部』と刺繍されていた。


「これ……」

 文代さんの顔から血の気が引いた。

「あんたの割烹着じゃない……」

「違う」

 寛治が即座に否定した。

「確かに私のものだが、誰かが勝手に使ったんだ。私を陥れようとして――」

「叔父さんが夕食のときに着てたやつだよ、それ」

 実子ちゃんが言った。

「袖のところ、昨日私が引っかけて破っちゃったから覚えてる。ほら、そこ」

 割烹着の左袖には、小さな裂け目があった。思わず拍手しそうになったのを何とか堪えた。

 本日二度目のホームラン!今日のMVPは実子ちゃんだ!


「それでも、私が龍二さんを殺した証拠にはならない!」

 寛治が叫んだ。

「誰かが私の割烹着を盗み、血をつけてここへ隠したのかもしれないだろう!」

「ん? なんか入って――」

 剛が、割烹着の中に包まれていた何かを確かめようと、血に染まった布を開いた。現れたのは、刃渡り二十センチほどの包丁だった。刃にも柄にも、赤黒い血がべったりとついていた。


「ひっ……」

 実子ちゃんが小さな悲鳴を上げた。

「うわっ!」

 剛が包丁を取り落とした。割烹着と一緒に畳へ落ち、鈍い音を立てる。

 文代さんは、口元を押さえたまま、信じられないものを見るように夫を見つめている。


「あんた……」

「違う!」

 寛治が怒鳴った。

「俺じゃない! 誰かが俺を嵌めたんだ!」


【どうしてだ。どうしてこいつは、証拠の場所まで】


 寛治の視線が、俺を捉えた。


【アリバイの仕掛けにも気づいた。包丁を鞄に入れようとしたときも止めた。そして、今度は押し入れまで】


 まずい。寛治の思考が、確実に答えへ近づいている。


【まるで、こいつは俺の考えていることを――】


「真実は、いつもひとつ!!!」


 俺は、その思考を遮るように大声を上げた。

 仕方ないじゃん、とっさに浮かんだのがこのワードだったんだもん。


「あなたは20時24分から20時50分までの間に、一度この宿へ戻った!」

 ちょっと無理矢理だけど、推理パートに入りますよ、ええ。

「何を根拠に!」

「証拠がここにあるからです!」

 俺は、血まみれの割烹着と包丁を指差した。

「龍二さんを殺したあと、あなたにはこれを処分する時間がなかった。だから犯行現場のすぐ隣にある、この部屋の押し入れに一時的に隠した」

「ただの推測だ!」

「じゃあ、説明してくださいよ!」

 俺は寛治を睨んだ。心臓は、今にも喉から飛び出しそうだった。


 怖い。本当は、めちゃくちゃ怖い。この人デカいし色黒だし。

 それでも、ここで退くわけにはいかなかった。


「どうして、あなたが着ていた割烹着が、血のついた包丁を包んだ状態で、犯行現場の隣に隠されていたんですか?」

「それは……」

「誰かに盗まれたと言うなら、いつです? あなたはその割烹着を着たまま船着き場へ行った。文代さんも実子ちゃんも確認している」

 寛治の額に、汗が浮かぶ。

「違う……」

「あなたは実子ちゃんを受付から離れさせ、一度宿へ戻った。龍二さんを殺し、割烹着と包丁をここへ隠したあと、もう一度船着き場へ戻ったんです」

「違う!」

「だったら、他に説明できますか?」


 寛治は答えなかった。

 答えられなかった。

 京香さんが、涙に濡れた目で寛治を睨みつける。

「あんたが……殺したの……?」

 文代さんが、一歩ずつ夫から離れていく。

 実子ちゃんも青ざめた顔で、その後ろへ下がった。今度ばかりは演技ではなさそうだ。

 完全に、流れが変わった。

 さっきまで剛へ向けられていた疑いの目が、今はすべて寛治へ集まっている。


「磯部寛治さん」

 俺は、震えそうになる声をどうにか押さえた。

「龍二さんを殺したのは、あなたですね?」


 長い沈黙が落ちた。やがて、寛治の肩が小さく震え始めた。


「く……」


 笑っているのか。

 泣いているのか。

 俺には分からなかった。


【もう駄目だ】


 心の声だけが、はっきりと聞こえた。


【全部バレた】


 寛治が顔を上げた。その目には、先ほどまでの穏やかさなど一片も残っていなかった。


【こうなったら――】


 寛治の視線が動く。

 まずい。


「包丁を!」

 俺は叫んだ。だが、突然のことに誰も反応できない。

 寛治が畳を蹴り、血まみれの包丁を掴み取った。

 

 その先には――佑梨がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ