第9話 【直面】突きつけられた肥満の二文字と、その贖罪にかかる時間
「はいっ!」
二つ返事で答えながら、俺の脳内CPUは「どのラノベを布教すべきか」の選定にフル回転。
だがそんな浮ついた心は、みさきさんの次の言葉で一瞬にしてフリーズした。
「じゃあ次は、身長と体重を測りましょうか?」
「は、はいっ!」
また反射的に、答えてしまった。
案内されたのは、やたらと存在感を放つ銀色の筐体。
――体組成計。
たかが体重測定。されど俺にとっては、過去の怠惰を直視する一瞬の「拷問」に等しい。
しかも隣には、眩しすぎる天使系トレーナー、羞恥心は最高潮。
(……いや、逃げちゃダメだ)
俺だって本当は、変わりたい。
人並みに、ちゃんと胸を張れる自分になりたいんだ。
俺は腹をくくり、静かにその体組成計の上に足を乗せた。
「身長、169.0センチ。体重、80.5キロ」
みさきさんが数値を読み上げる。
「BMIは……28。体脂肪率は30%ですね」
彼女が指さした一覧表に堂々と刻まれた二文字。
『肥満』
もちろん読み仮名なんて振られていない。
だが、俺の目にははっきりとカタカナの二文字が見えた。
思えば、体重計に乗るなんていつ以来だろうか。
健康診断では常に「D判定」。
精密検査をギリギリのところで回避してきた。
だが今、無機質な機械が突きつけた数値は、俺が現実から目を背けてきた「証」そのもの。
「……なるほど」
人間、あまりに都合の悪い事実を突きつけられると、意味不明な言葉が漏れるらしい。
情けない呟きに、思わず自嘲する。
「何か……すいません」
「いえいえ! これから一緒に頑張っていきましょう!」
みさきさんは明るく励ましてくれたが、ふと、その表情がプロの顔に切り替わった。
「ただ……正直に言いますね。少し数値が高いので、絶対にダイエットしたほうがいいです! 目標の70キロ、いえ、まずは健康のために5キロ落として75キロを目指しましょう」
14年分の“怠惰のツケ”。
この贖罪に、どれだけの汗と時間が必要なのか、正直想像もつかない。
けれど、彼女は力強く言い切った。
「八天さんが頑張れば、半年……いえ、四ヶ月で10キロは落とせると思いますよ!」
にっこり微笑むその顔は、相変わらず俺に「全能感」という名のバフをくれる。
みさきさんが詐欺師じゃなくて、本当によかった。
この笑顔を前にしたら、どんな怪しげな壺の販売や、不当な高額セミナーも、二つ返事で「はいっ!」と契約してしまいそうだ。
「わかりました。やってみます……!」
俺は力強く頷き“六十キロ台”へ突入するという壮大なクエストを、みさきさんと固く受注した……気がした。
目標が定まったことで、まるで魂の炎にふいごで酸素を送り込んだかの如く、俺のモチベーションは最高潮に達する。
(よし、いよいよ本格トレーニングの開始か……!?)
「次は、普段の食事についてもう少し詳しく教えてください♪」
……またも、梯子を外される俺。
「あの……トレーニングは?」
つい、余計な質問をしてしまう。
「もちろん、トレーニングも大事です。でも……」
しっかりと俺を見据えて彼女は言葉を続ける。
「どれだけ運動を頑張っても、食事が良くないと全部台無しになっちゃうんです」




