第10話【習慣】授かったシェイカーと、心に灯った『希望』
そ、そうなのか。
「ダイエット=筋トレやランニング」で、汗をかいて走り、力尽きて倒れ、気付けば痩せている
――そんなひと昔前のスポ根漫画のようなイメージが俺の脳内に浮かんでいた。
「もちろん運動も大事です。でも、ダイエットの場合は『食事』がすごく重要なんです」
みさきさんの真剣な眼差しに、俺は思わず背筋を伸ばす。
アンケートに書いた、到底褒められたものではない俺の食生活。
彼女は少し考えてから、いくつかの提案をしてきた。
「そうですね。自炊が一番いいんですけど……まずは、普段食べている菓子パンをおにぎりに置き換えたりはできますか?」
「まぁ、日本男児ですから、多分大丈夫っす!」
パンに浮気しがちだったが、改めて本命である米への忠誠を誓う。
「それと、飲み物からカロリーを摂らないようにしましょう。代わりに、水を多めに飲む習慣を。コーラが飲みたくなったら、ゼロカロリーのものなら大丈夫です。でも、できれば常飲は避けてくださいね」
助かった……!
コーラは俺にとっての生命線。
全面禁止という名の封印《BAN》を食らっていたら、ダイエット開始前に戦線離脱していたかもしれない。
「……あとは、やっぱりプロテインもおすすめです」
「プ、プロテインだと……」
その単語を聞いた瞬間、俺は思わずゴクリと唾を呑み、半歩後ずさった。
来た……禁断のアイテム。
あの、筋肉隆々のマッチョたちが摂取する“怪しい粉”。
口にした途端、体毛が濃くなって眉毛が繋がり、夜中に「ウオオオオ!」と奇声を上げながらベッドを粉砕。
「静まれッ! 俺の筋肉ァァ!」
みたく制御不能な暴走状態に陥るんじゃ……。
そんな俺の挙動不審なリアクションを見て、みさきさんはふふっと小さく笑った。
「大丈夫ですよ。プロテインは、ただの『タンパク質』のことです。体に必要不可欠な栄養ですし、最近のはすごく美味しいんですよ。満腹感も出るので、ダイエットの強い味方になってくれます」
「……た、タンパク質……」
俺はその言葉をオウム返しにしながら、必死に頭の中のイメージを修正する。
“怪しげな粉”から“栄養補助食品”へ。
なるほど、そう言われると急に身近な存在に思えてくるから不思議だ。
「それに、八天さんの場合は食事でのタンパク質が不足気味ですから。トレーニングと並行して取り入れていけば、筋肉にもダイエットにとってもプラスになります」
……なるほど。いいことづくめではないか。
みさきさんの完璧な理論によって、俺の偏見が粉々に打ち砕かれていく。
「あとは、毎日体重と食事を記録してください。これを『レコーディング』と言います。乗るだけで記録してくれる体重計も二千円くらいで買えますよ。食事は、とりあえず食べたものの写真を撮るだけで大丈夫です」
写真を撮り、体重を測る。
それだけで痩せるとはあまり思えないが……。
だが、その程度なら、俺にも続けられそうだ。
「ダイエットは、習慣の積み重ねなんです。食事の置き換え。プロテイン。水分補給。そしてレコーディング。この四つの基本習慣を身につけられれば、成功にグッと近づきます。……ラノベでいうところの『スキル』みたいなものですね」
彼女はいたずらっぽく笑う。
――スキル。なるほど。
転生ものの主人公が、新たな能力を習得していくように、俺もこの現実世界で「スキル」を身につけ、レベルアップしていく……。
そう考えると、これまで苦行だと思っていた生活改善も、急に輝かしいイベントに思えてきた。
スキル獲得!みたいな効果音やナレーションが無いのは残念だが、そこは脳内で補完しておくことにしよう。
「本日は以上になります。次回は明後日の夕方、実際にトレーニングを行いましょう!」
「わかりました。よろしくお願いします!」
入会特典として、いくつかのプロテインサンプルとシェイカーを授かった俺は、妙に高揚した気分でジムを後にした。




