第11話【第二形態】放て究極奥義《痩身の四神柱》!
記念すべき初トレーニングは明後日にお預けとなった。
みさきさんとのカウンセリングによって、俺は四つの初歩的なダイエットスキルを授かった。
・《レコーディング》
――毎日、体重と食事を記録する。
・《置き換え》
――菓子パンをおにぎりに置き換える。
・《水分補給》
――水を積極的に摂り、飲み物からカロリーを排除する。我慢できない時の“ダイエットコーラ”は可。
・《プロテイン摂取》
――筋肉とダイエットに役立つサプリメント。
まだ本格的な運動は始めていないが、会社での一件も重なり、心身ともにクタクタだ。
アパートに帰るなり、俺は着替えもせずベッドへと倒れ込んだ。
(……十キロのダイエット。本当に可能なのか?)
そんな疑念を抱えながら、Amazonで体重計やプロテインを物色しているうち、俺の意識は深い闇へと呑まれていった。
そして――夢の中。
「フハハハハ! 喰らえ、我が究極奥義――優越性誇示の炎!」
突如現れたのは、どす黒い瘴気を纏った闇の魔導師。
その顔は……あの忌々しい京右介に酷似していた。
「“闇の炎”に焼かれて消えろッ!」
轟々と燃え盛る炎が俺を呑み込む。
魔導師は勝ち誇ったように嗤った。
「これで貴様も終わりだァ!」
……だが。
「なっ、バカな……!」
数瞬ののち、魔導師の表情が凍りつく。
炎に包まれながらも、俺は立っていた。
黒く焦げ付いた体を揺らしながらも、その双眸でしっかりと敵を見据えて。
「なかなかやるじゃねえか。……だが、ここからは俺のターンだ」
ドサッ。
俺は煤を払うように、纏っていた黒衣を脱ぎ捨てる。
「こいつはあえて身に付けていた枷、“脂肪”さ……。約十キロってところかな」
勝負は、ここからが本番だ。
第二形態へと移行した俺は、高らかに言い放つ。
「喰らえ! 新たに得た我が奥義――痩身の四神柱!」
俺の言葉とともに、四本の光柱が天を貫くように立ち昇った。
京右介を取り囲むように、絶対的な結界が張られる。
光の輝きは強さを増し、闇を浄化していく。
「バッ、馬鹿なっ……。ぐわあああああああぁぁぁ!」
京右介(似の魔導師)の断末魔が響き渡り――。
ピピピ! ピピピ!
「おいィィィ! もう少し勝利の余韻に浸らせろや!」
無慈悲なアラームに叩き起こされ、現実へと引き戻された俺は、恨み言を吐きつつスマートフォンのスヌーズを止めた。
シャワーを浴び鏡の前に立つと、そこにいたのは、夢の中のスタイリッシュな“第二形態”ではなく、昨日と寸分変わらぬ情けない姿の俺。
残念ながら覚醒は夢の中での出来事だったらしい。
それでも、トイレを済ませてから埃を被った古い体重計を引っ張り出し、体重を測った。
ピピッ!
『80.0kg』
昨日の計測から、0.5kgの微減。
みさきさんは「日々の変動に一喜一憂しすぎるのは良くない」と言っていたが……それでも、なんだか嬉しい。
そして俺は昨日もらったプロテインとシェイカーをカバンに詰め込んだ。
道中、コンビニで「菓子パン」の棚をスルーし、おにぎりと水を購入し、小さなレベルアップを感じながら、俺は会社へと向かった。




