第12話【陥落】大波に飲まれし聖域。今こそ失われた『スキル』を再取得せよ
職場で朝からおにぎりを頬張るのは、人目もあって少々気が引ける。
だから俺は出社前、車内という名の“隠しダンジョン”で朝食を摂ることにした。
おにぎりと水を、スマホのカメラで撮影。
――写真映えのスキルは皆無。
だが、それでいい。
これは、俺の進化の記録の第一幕だ。
がさがさとおにぎりの包装を開き、おもむろに頬張る。
もしゃもしゃ……。
舌に広がる米の甘みと、具材の塩味。
その瞬間、二つの真理が俺の脳裏に刻まれた。
ひとつ――米は、やはりうまい。
最近はパンに浮気しがちだったが、やはり本命は米以外ありえない。
米こそが長年日本人を養ってきた、主食の王者。
ラーメン、ピザ、ステーキ……単体で米より旨いものは山ほどあるかもしれない。
だが、飽きずに心と体へ染み渡るのは――やはり米を置いて他にない。
そして、もうひとつ――。
米、高すぎワロタ。
昔は鮭などの“高級おにぎり”ですら、コンビニで150円も出せば買えたはずだ。
なのに今となっては、150円で買えるおにぎり自体がほとんど存在しない。
インフレーションの《タイダルウェーブ》は、米という名の聖域を余裕で飲み込んでいた。
かさむ日々の出費。みるみる減っていく通帳の残高。底をつく瞬間が、リアルな恐怖となって脳裏をよぎる。
ジムの料金も決して安くはない。
もし減給が現実になったら――我が家の財政は、まるで《バベルの塔》のように一瞬で瓦解してしまう。
……でも、
「菓子パンより、おにぎりに置き換えましょう」
みさきさんの言葉が、脳内で再生される。
このジレンマを解消する方法は……やはり、自炊しかないか。
全部は無理だ。だが、せめて米だけは自分で炊こう。
一度は捨てた《自炊》というスキルに、ポイントを振り直す時が来たのかもしれない。
またしても新たなる決意を胸に。
俺はタイムカードを押し、会社という名の戦場へ向かった。




