第7話 【転職】ここから始まる俺の物語の第一歩
オフィスに戻ると、コピー機の前にいた木場課長が、俺に気づいて声をかけてきた。
「八天くん……大丈夫……?」
その声色に咎めるような響きは、まったくなく、純粋な心配が滲んでいた。
「はい……大丈夫です。心もお腹も、ちょっとだけスッキリしましたので」
明るいトーンで返したつもりだったが、完全に気持ちの整理がついたわけじゃない。
「長ぇトイレだな……違うことでもしてたのか?」
席に戻る途中、京右介が目を合わせずにつぶやく。
独り言のようなトーンだが、ニヤついた口元からは悪意のサインが滲み出ていた。
俺は反応しないようつとめたが、心の中の「絶対に許さないリスト」に奴の名前を太字で記入しておいた。
心とお尻に消えない傷を負いながらも、なんとか仕事を完遂。
定時と同時に、俺は再び“あの場所”へと向かった。
エンチャントジム──。
夕暮れの西日に包まれたその場所は、まるで聖域のような神々しさを湛えていた。
……ここは新たなる俺の物語が始まる『冒険者ギルド』のカウンター。
目の前には見慣れたエントランスと、あの呼び出しボタン。
押すのは、これで三度目だ。
深呼吸ひとつ。
指先でそっと、ボタンに触れる。
少しの沈黙。そして。
「お待ちしてました」
笑顔で出迎えてくれたのは、トレーナーのみさきさん。
相変わらずその笑顔は、高位治癒魔法の如し。
体だけでなく、心の傷まで癒えていく気がした。
今日は、初回カウンセリング。
持ってくるように言われたアンケートと契約書。
念のための、動きやすい服装。
そして、炎のように燃え滾る「気持ち」は十分だ。
どんなトレーニングも、受けて立とうじゃないか。
「まずはアンケート、拝見させていただきますね」
シンプルながら、核心を突く質問の数々。
少しでも現状を変えたい――。
その気持ちは、間違いない。
だがどこまで本音をさらすべきか、正直迷った。
変にカッコつけて滑るのも嫌だし、かといって全てを赤裸々に晒すのは謎のプライドが邪魔をする。
俺は最後の審判を受ける思いで、彼女にアンケートを手渡した。




