第58話 【致命傷】待ち合わせ場所にいた、眩しすぎる「光の化身」
約束の時間15分前。俺はすでに、巨大な駅前の広場に立っていた。
過去最大のクエストに「遅刻」だけはありえない。
……ただ、あまりにも早く到着してしまったせいで、別のモンスターが襲いかかってきた。
(……待て。本当にこの服で正解だったか?)
ショーウィンドウに映る自分を、不審者のように何度も確認してしまう。
(……飯、もう少しリサーチしておくべきだったか?)
スマホで周辺の飲食店を再確認する。
(映画のあと、どうする……? そもそも、何を喋る……?)
思考が回転するたびに、不安という名の怪物が無限湧きしてくる。
スマホを見て、時計を見て、窓に映る自分を見る。首の座らない挙動は、完全に挙動不審のそれだった。
一度は断ち切ったと思っていた「自意識」という重い鎖が再び現れ、俺を雁字搦めにしていた、その時だった。
「――八天さん?」
背後から届いた声。
聞き慣れているはずなのに、今日は響きが違う。
振り向いた、瞬間。
……思考停止。
語彙力が、一瞬で消滅した。
そこにいたのは、ジムで会う“トレーナーのみさきさん”ではなかった。
清潔感のある白いブラウス。歩くたびに柔らかく揺れる、深い紺のスカート。
どこか制服を思わせるような着こなし。
午後の柔らかな陽光を背負って立つ彼女は、どこか現実離れした透明感を纏っていた。
(……神よ、感謝します)
内心で神へと五体投地し、我が身を捧げていると、みさきさんは小首をかしげて、いたずらっぽく笑った。
「八天さん……今日、すごくカッコいいですね」
《きゅうしょにあたった!》
「最初、あまりに雰囲気が違うから、別の人かと思っちゃいました」
さらっと言うな、そういうことを。
やはり女子は、コミュニケーションのレベルが違う。
「あ、いや、その……み、みさきさんも、その……」
スクワットのラスト1レップ以上に、喉が狭く苦しい。それでも、なんとか言葉を絞り出す。
「……めちゃくちゃ、綺麗です。……あ、いや、可愛いです」
言ってしまった。
言った直後に、自分がそのまま蒸発して消えてしまいたいほどの羞恥心に襲われる。
「いや、本当に……すみません、きょどってて……」
ダサい。最高にダサい。
だが、みさきさんはふっと笑った。
ジムで見る快活な笑顔よりも、ずっと柔らかい。少しだけ“一人の女の子”としての、優しい笑い方。
「ありがとうございます」
その一言で、また俺の心はジャイアントスイングを食らったかのようにブン回される。
激しい情緒への物理攻撃により、俺のHPはすでに限界へと近づいていた。
(もしかしたら、今日が俺の命日になるかもしれない……)
「……映画まで少し時間ありますね。ごはん、どうしましょうか?」
……え。待ってくれ。
完全に主導権を握られている。完璧にリードされている。
(落ち着け、ここで男を見せないでどうする)
だが、胸の奥では別の自分が絶叫していた。
(無理だろこんなの!! 可愛すぎるだろ!!)
繁華街の雑踏が遠のいていく。
映画が始まる前に、俺の人生という名の物語は、すでに制御不能な加速を始めていた。




