第5話 【天国】繰り出す勝利のガッツポーズ。英雄となった俺が作り出したハーレム
「おはようございます……」
さすがに二日連続の遅刻は、文字通りの存在消去に直結する。
少し早めに出社した瞬間に、肌を刺すような違和感。
ちらりと向けられる、同僚たちの視線。
昨日“王の裁きを受けし者”として、俺はすっかり“観察対象”になってるらしい。
やれやれ。これだから小市民は。
――by 小市民代表・八天
他人の不幸は蜜の味。
誰が吊るし上げられるだとか、誰が出世するだとか。
ゴシップはいつの時代も、庶民の最高のご馳走だ。
まぁ昨日は俺がその当事者だった訳だが……。
デスクに座り、PCの電源を入れたその時。
背後に、不穏な気配を感じた。
「よぉ、八天。昨日は……災難だったな?」
肩を叩く、粘着質な声。
やはり来たか……。
上田京右介
同期入社で、出世に縁のない者同士。
わずかながら仲間意識も持っていた。
だが最近、「係長補佐」という微妙な肩書きを手に入れてからというもの。
奴は新種のモンスター――“マウンティングゴリラ”にでもなったかのように、俺に対して威圧的な態度を取るようになっていた。
「運も悪かったけど、元は俺が悪いし。仕方ないよ」
モニターから目を離さず、そっけなく答える。
だが俺のなけなしの防御行動が、奴の逆鱗に触れたらしい。
「自己管理は、社会人の基本だぜ? だからお前は……駄目なんだよ」
顔をこれでもかと近づけ、俺のデスクに手を叩きつける。
パーソナルスペース?そんなものはとうに侵略済、宣戦布告の一歩手前だ。
(……いや、お前にだけは言われたくない)
体型に関しては少なくともお互い様。
言い返したい気持ちは山々だ。
だが、昨日の出来事と「社内ヒエラルキー」という分厚い盾がそれを拒んだ。
胸の奥で煮えたぎる“憤怒のマグマ”を必死に抑え込み、俺は無言でキーボードを叩き続ける。
だが、この「沈黙」が逆に奴の“マウントソウル”を完全に燃え上がらせてしまったらしい。
奴は、更に追い討ちを放つ。
「お前みたいなのが一人いると、みんな安心すんだよ。“俺はまだマシだな”ってな」
京右介はニヤリと、醜悪な笑みを浮かべた。
「勝手に辞めたりすんなよ? 貴重なピースなんだからさ」
拳が震えた。
(もう我慢ならん……ッ!)
反射的に立ち上がる。
椅子がガタンと音を立てて倒れ、フロアの空気が一気に凍りついた。
グイッ!
力任せに、左手で京右介のワイシャツの襟を掴み上げる。
そして――。
渾身の右ストレート一閃。
俺の拳は、美しい放物線を描きながら京右介の顎を撃ち抜いた。
鈍い音と共に、奴の顔がぐにゃりと歪み、そのまま後ろのデスクへダイブ。
「……ッッシャアアアア!!」
思わず、勝利のガッツポーズ。
オフィスの社員たちから、拍手の渦が巻き起こった。
「八天さん、見直しました!」「あいつ、いつかやってやろうと思ってたんです!」
満開の桜のような祝福の声。
そしてなぜかそこに現れる、みさき。
「すごいです……かっこよかった……!」
潤んだ瞳で見つめてくる。
喧騒の中、俺は彼女の肩を抱き寄せ、地に伏した京右介へと、最高にクールな決め台詞を放つ。
「これが……ダイバーシティとコンプライアンスを超えた、俺の限界突破だ――」




