第49話 【覚醒】「呪言」を無効化! 奴の奥底に潜む虚無
「……どうした? そんなに張り切っちゃってさ」
京右介は俺のデスクの角にどっかりと腰を下ろし、小馬鹿にしたような笑いを浮かべた。
「新規商品、ねぇ。……お前にはさ、その隅っこの安全圏で大人しくしてるのがお似合いだと思ってたんだがな」
奴はわざとらしく肩をすくめてみせる。
「会社は『やり直し』がきくRPGじゃない。一度レールから外れた奴に、わざわざ救済の手を差し伸べるお人好しなんて、この会社には一人もいないぞ」
じわじわと効いてくる、遅効性の毒。
だが。
「……悪いけど」
俺はキーボードから手を離し、視線だけで恭右介を静かに見上げた。
「それ、“俺の問題”だろ」
一拍。
「どうするかは、俺が決める。……悪いけど、京右介には関係ない」
「……は?」
恭右介の眉がピクリと跳ねる。
だが、奴はすぐにまた卑屈な笑みを貼り直した。
「へぇ、言うようになったじゃん。でもさ――俺は心配してやってんの。お前がまた潰れる姿を見るのは、大事な同期として忍びないんだよねぇ」
わざとらしいため息が、デスクの空気を汚していく。
だが――。
(……なんだ?)
以前なら深く突き刺さっていた言葉の刃が、まるで空を切るように表面で弾かれる。
(こいつ……なんで、ここまで絡んでくる?)
ふと、視点が反転した。
バーベルと向き合う時、意識のすべてを自分の「内側」に向けなければ、一瞬で鉄塊に押し潰されてしまう。
トレーニングを通じて「自分に集中する」ということを学んだからかもしれない。
(……そういうことか)
一つの仮説が脳裏に浮かんだ。
こいつは、自分を“他人より上か下か”という相対的な物差しでしか測れないんだ。
だから他人を必死に引きずり下ろして、無理やりにでも自分の「高さ」を維持しようとするしかない。
その虚しさが、恭右介という男を突き動かしていると気付いた。
「……わかったわかった。用が済んだなら、仕事に戻ってくれ。俺、これから忙しくなるからさ」
俺は恭右介を軽くあしらうと、迷うことなく視線をモニターに戻した。
背中に走る鈍い筋肉痛。
それは、今の俺が自分の足で、自分の道を選んで歩いているという確かな証拠だ。




