第50話 【中間リザルト】2ヶ月の軌跡が塗り替えた「世界の色」と、『自分を信じる力』。
「2ヶ月」という時間は、思っている以上に、世界の色を塗り替えていた。
いつもの朝、いつものルーティーン。新しく買い替えた自動記録機能付きの体重計が、無機質に「75.2kg」という数字を弾き出す。
初期の80kgから、およそ5kgの減少。
その軌跡は決して平坦ではなかった。
理由もなく数字が跳ね上がった時もあれば、停滞するグラフに焦りを覚えた時もあった。
だが、長いスパンで見れば、その線は確実に右肩下がりの軌跡を描き続けていた。
鏡を覗き込めば、顔の丸みは削げ落ち、埋もれていた顎のラインがうっすらと鋭い輪郭を現し始めている。
腹周りには、未だ贅肉がしぶとく居座ってはいるが、ベルトの穴は確実に奥へと進んでいた。
そして何より、腕と肩に宿り始めた確かな「隆起」。
最近は、オフィスでも「痩せた?」と声をかけられることが増えた。
毎日見ている自分より、他人の不意の一言のほうが、変化を実感させてくれる。
それはまるで、脳内に「レベルアップ」のファンファーレが響くような、不思議な高揚感だった。
「……よし」
短く呟き、キッチンに立つ。
ゆで卵とおにぎり。
今ではこの簡素で力強い食卓を整えることが、俺にとっての心地よい「日常」となっていた。
そして、もう一つの欠かせないルーティーン。
朝の写真を撮り、みさきさんに送る。
返ってくるのは、いつも通りの柔らかい激励。
彼女との関係が劇的に変わったわけじゃない。
それでも、画面の向こうに「同志」であり、「導き手」がいるという事実。
それが毎日の自制心と、折れない活力を与え続けてくれていた。
――現実という名のダンジョンも、同時に攻略を進めている。
新規商材の営業。あの公募から2ヶ月。
最初は木場課長の後ろをついて回るだけだった俺も、今では一人で商談の最前線に立つ場面が増えてきた。
不慣れな環境に、足を取られる失敗もあった。
過去の俺なら、そのまま再起不能していただろうピンチもあった。
だが、自分を信じ、そして「仲間」を信じることを覚えた今の俺は、泥を啜りながらでも立ち上がり、壁を乗り越えることができた。
「おはよう、八天くん」
オフィスに出社すると、木場課長が顔を上げた。
その視線に混じっているのは、かつての「期待」だけじゃない。ほんの少し、だが確かな手応えを伴った“信頼”。
「おはようございます、課長。今日の進捗、後ほど報告します」
完璧じゃない。順風満帆でもない。
それでも――停滞という名の泥沼にいた頃の自分から見れば、今の俺は、間違いなく“前”を向いて歩いている。
そして、仕事終わり。
俺にはもう一つの帰るべき拠点がある。
――エンチャント・ジム。
全てはここから始まった。
その扉の前で、俺は再度、固く拳を握り直した。




