↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
46/60

第46話 【名探偵?】推理が炸裂! 完膚なきまでに丸裸にされた俺の恋心

「それに」


木場課長は俺の顔を覗き込み、励ますように言葉を繋いだ。


「社長にハッパをかけられたのも、今の八天くんにとってはチャンスかもしれないわよ。印象最悪の相手に、最高の成果を見せる……。0よりも、マイナスのほうがずっとマシかもしれないわよ」


その一言に、胸の奥の詰まりがほどける。


「ありがとうございます。なんか、すっと腑に落ちました」


小さく息を吐いた――のも束の間。

その次の瞬間、俺は文字通り固まった。


木場課長が、見たこともないくらい目を輝かせ、獲物を狙う肉食獣のような鋭さでこちらを覗き込んでいる。


「……で?」


溜め。


「それ、誰の話かなぁ?」


声のトーンが一段上がる。さっきまでの冷静な上司の顔はどこへやら。目の前にいる課長は、完全に“特ダネを嗅ぎつけた敏腕記者”へと変貌を遂げていた。


「え、いや、その……特定の誰かってわけじゃなくて、あくまで一般論というか――」


「さっきの熱量で一般論は無理があるわね」


秒で切り捨てられる。


「気になるなぁ。ジムの人? それとも――意外と社内だったりして?」


名探偵、推理という名の妄想を全力で展開中。


「あは、はは……! まさか、そんな。課長、想像力が豊かすぎますって」


引きつった笑いが、自分でもよくわかる。逃げれば逃げるほど、包囲網はさらに狭まり、緻密になっていく。


「そういえば、さっきから気になってたのよね。八天くんが持ってた妙に具体的なタイトルの本」


ぎくっ!


『アラサーおっさん、異世界でチート筋肉を授かって無双する 〜鬼教官なのに実は甘々な彼女とのトレーニングライフ〜』

だっけ?


課長は人差し指を顎に当てて、正確にそらんじてみせた。


「何で完璧に暗記してるんですかっ……!」


俺の精神がきれいに汚染される。


「……あ。わかった」


天網恢々疎にして漏らさず。


「前に言ってた『トレーニング指導してくれる人』。あれでしょ。最近やけに熱心にジムへ通ってると思ってたけど――」


「……ッ! いや、それは……」


終わった。


ここで“すぐ顔に出るタイプ”という、致命的な弱点が露呈する。


「ふふ。可愛いところあるじゃない、八天くんも」


肩を軽くポンと叩かれる。完全に掌の上で転がされている。


「ま、今日はこのへんにしておいてあげる。今度、ちゃんと飲みに連れて行きなさいよ?」


「……承知しました。コーヒー一杯のつもりが、高くつきそうですね……」


「当然よ。いい情報はタダじゃないの」


くるりと踵を返す、颯爽とした背中。


……が、数歩進んだところで彼女が足を止めた。振り返った課長は、いたずらっぽく笑ったまま、けれど少しだけ真面目な瞳をしていた。 


「いい? 八天くん」


一拍。


「男はね、変に格好つけてる時より――何かに向かって必死になってる時の方が、ずっと魅力的に見えるものよ」


彼女は、自身の経験に裏打ちされたような確信を持って断言した。


「困ったら、お姉さんに相談しなさい。……応援してるから」


「……善処します」


苦笑いで深く頭を下げる。


「……ふふ、私ももう少し男を見る目があればねぇ。今頃シングルマザーなんてやってないわよね」


最後に軽くウィンクして。ぽつりと寂しげに、けれど潔く呟きながら、彼女は娘の待つベンチへ颯爽と歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。