第44話 【衝撃】かつての俺と同じだった。少女が、鉄の塊に救いを見出すモノローグ
『みさきさんは、どうしてそんなに一生懸命なんですか? 正直、尊敬を通り越して……ホントは神様じゃないかって疑ってる位なんですが…?』
送信。
軽口というオブラートに包んだつもりだったが、指先に残るのは誤魔化しきれない本音だ。
「何を聞いてるんだ、俺は」
という後悔と、それでも彼女を知りたいという思いが激しく拮抗する。
やがて、メッセージが「既読」に変わる。
少し長めの沈黙のあと届いた返答は、いつもの明るい調子とは少し違っていた。
『……神様だなんて、そんな。私、もともとは八天さんよりずっと“からっぽ”な人間でしたよ(笑)』
画面の向こうに彼女の困ったような、照れたような表情が浮かぶ。
『物心ついた頃から、ずっと誰かの顔色を見て生きてきました。親が喜びそうな返事を選んで、友達に嫌われないように振る舞って、空気を壊さないように笑う。そのうちに分からなくなったんです。――私は、誰のために生きてるんだろうって』
メッセージは途切れない。彼女の独白が、文字となって静かに流れ込んでくる。
『きっかけは、たまたま流れてきたトレーニングの動画でした。何となく真似してみたら、すごく気持ちが良くって。誰かの顔色を伺う必要も、空気を読む必要もない。ただ、自分の身体とだけ向き合えばいい。それが、当時の私にはすごく救いだったんです』
一拍。
『トレーニングって、本気で向き合った分だけ、ちゃんと数値や形で応えてくれる。嘘をつかないんですよ。だから、生まれて初めて“自分の力で掴んだものだ”って思えました』
俺は、画面を見つめたまま動けなかった。
生まれながらの“光の住人”だと思っていた彼女が、実は、深い暗闇の中で必死に光を紡いでいた。
その事実が、胸の奥に、静かに落ちていく。
遠い星のように眺めていた彼女のとの距離が、ほんの少しだけ近づいた気がした。
溢れる光から感じる「質量」。
その重みが、スマートフォンの画面を越えて、じわり手のひらへと伝わってくる。
『だから、八天さんが今、必死に変わろうとしている姿を見ると……本当に嬉しいんです。なんだか、昔の自分を見ているみたいで』
最後の一行。
彼女の光は、最初からそこにあったものじゃない。
暗闇の中で、何度も手を伸ばして、自らの意志で灯し続けてきたものだったんだ。
そして今この瞬間、その光が、ほんの少しだけ――俺の中にも移った気がした。




