第35話 【再構成】 ベルトの穴が「奥」へ吸い込まれる装備更新の瞬間。
妙にリアリティのある夢から、ハッと目が覚めた。
「鏡の中の俺」が放ったあの圧力が、まだ皮膚の裏側にこびりついているようだった。
俺は這いずるようにしてベッドを抜け出し、馴染みになりつつあるルーティンを開始する。
トイレを済ませ、運命の審判台(体重計)へと静かに乗る。表示されたデジタル数字は――
「77.8kg」
「……よしっ!」
思わず声が漏れた。
昨日からさらにマイナス0.7kg。
数字という名の「努力」が、目に見える形で蓄積されていく。
地獄のようなスクワットや、味気ない食事の向こう側に、確かな報酬が存在していたのだ。
キッチンに立ち、もはや職人芸となりつつある手際でゆで卵とおにぎりを作る。
そして、昨日仲間に加えたばかりのバナナも皿に並べて、朝の報告写真をパシャリ。
だが、送信ボタンを押す直前、奇妙な後ろめたさが胸をかすめた。
ストイックな卵とおにぎりだけの陣容に、突如として現れた家庭的な甘い誘惑。
「浮気……ではないんだろうけど」
独り身の俺にやましいことなど何もないはずなのだが、謎の葛藤を抱えつつも画像を送信した。
通知音は、驚くほどすぐに鳴った。
『いいですね!順調です。最初は水分が抜ける時期なので油断は禁物ですが、その調子でいきましょう。バナナはお通じにも効果的で、甘味もあるので、ダイエット中には最高の果物です♪』
みさきさんの言葉に、胸が温かくなる。
良かった、幼馴染みで正解だったんだ。
出勤の準備を整え、スラックスに脚を通す。ベルトを締めた、その瞬間。
「……あ」
カチリ、とピンが吸い込まれたのは、いつもより一つ奥の穴だった。
直近まで引っ張っても届かなかったその場所が、今日はごく自然に俺の腰をホールドしている。
装備の更新。
それは、俺の肉体が確実に「再構成」され始めている証なのかもしれない。
「……ふふっ」
鏡の中の自分と目が合う。
俺は、昨日までよりも少しだけ強く胸を張り、玄関のドアを開けた。
筋肉痛の痛みはまだそこにある。けれど、今日の一歩は、昨日よりもずっと軽やかだった。




