第33話【警告】みさきが教える本当に大事なもの
二セット目は、気合いで10回をねじ伏せた。
だが――三セット目は、精神論でどうにかなるほど甘くなかった。
5回、6回……。
腕が焼けるように熱い。
持ち上げているはずのバーベルが、逆に俺を押し潰さんと牙を剥いてくる。
――上がらない。
くそっ、あと数センチ……! 無理やりにでも押し上げようと、足を踏ん張ったその時。
「ストップ! 無理はダメです!」
鋭い声が飛んだ。
同時に、みさきさんの細い腕がバーを正確に支え、一瞬でラックへ戻す。
「はぁ、はぁ……っ、す、すみません、あと一回、いけたかと……」
息を切らしながら言い訳を口にしようとした俺を、みさきさんの視線が射抜いた。
優しいだけの目じゃない。
フォームも、呼吸も、限界の兆候も、全部見逃さないプロの目だ。
「八天さん、今かなりフォーム崩れてました。あのまま続けてたら、肩か肘を痛めてたかもしれないですよ」
「……あ」
「頑張るのは、すごくいいことです。でも、“頑張りすぎる”のは別です」
みさきさんは、そっとバーベルに触れる。
その仕草はどこか、少しだけ過去を思い出しているようにも見えた。
「トレーニングって、“また次もできる状態で終えること”がすごく大事なんです」
「……また次も」
「はい。怪我をすると、積み上げてきたリズムが全部止まっちゃう。身体より先に“気持ち”が折れるんです」
彼女のその言葉には、妙な重みがあった。
「……私も、昔はどれだけ限界まで自分を追い込めるかが大事だと思っていた時期がありました。
でも、無理が祟って大きな怪我をした事があって。その時に一番辛かったのは身体の痛みじゃなくって――大好きなトレーニングができなかった事だったんです」
彼女の抱えていた痛みを想像し、俺は言葉を失った。
「私は八天さんに無茶はしてほしくないんです。今日より明日の積み重ねが、結局いちばん強いですから」
ただ優しく励ましてくれるだけじゃない。止めるべき時は止めてくれる。
「……すみません。熱くなってました」
「わかってもらえれば大丈夫です」
すると彼女は、さっきまでの真剣な表情をふっと崩した。
「でも、そこまで追い込めるようになったの、本当にすごいですよ」
急に褒められて、照れ隠しみたいに頭を掻く。
その後は、ダンベルで肩を狙ったサイドレイズ、さらにマシンで背中と胸を追い込み、今日のトレーニングは幕を閉じた。




