第31話 【究極の選択】王女か、幼馴染みか。今こそハンターの本領発揮
俺は未だ震える足取りで、本来の目的である近所のスーパーへと向かった。
目的は「果物」と、晩飯の調達だ。
「……高っ」
青果コーナーで、思わず足が止まる。
目の前に並ぶのは、艶やかに輝くりんごや、紅い宝石のようないちご。
まさに果物界の「エルフの王女様」。
美しく気品に溢れているが、今の俺にはあまりにも高嶺の花だ。
(すまない……俺にはまだ、君を幸せにするだけのゴールドが足りないんだ……)
心の中で深々と詫びを入れ、そっと視線を逸らす。
そこにいたのは、飾り気のない黄色い肌の――バナナ。
派手さはない。だが、確かな栄養と安らぎを与えてくれる圧倒的な安心感。
……これだ。これこそが、今の俺が選ぶべき真の相棒。
(……いつも隣にいてくれる、健気な幼馴染……!)
「家庭的な女がタイプの俺、一目惚れ」
脳内で都合のいいラブコメのフレーズが再生される。
そうだ。今の俺に必要なのは、共に苦難を乗り越え、胃袋と家計を健気に支えてくれる“家庭的な存在”なのだ。
俺は一房のバナナを手に取ると、丁重にカゴへと迎え入れた。
さて、次の戦場だ。
惣菜コーナーへと移動する。さすがに夕食まで卵は避けたい。
割引シールが貼られる時間を逆算し、周囲の主婦たちの動きを読み切る――。
「狩りだ……」
半額ハンターとしての意地をかけ、選び抜いた本日のパーティがこれ。
白米
カップ味噌汁
鯖の塩焼き(30%OFF)
生野菜サラダ
帰宅し、それらを並べて写真を撮る。
「……どうだ?」
期待と不安が入り混じった指先で、みさきさんに送信。
通知音は、驚くほどすぐに鳴った。
『いいですね! 素晴らしいチョイスです!』
よし。まずは合格。
俺の選択は、間違ってはいなかったらしい。
だが、ここからが本番だった。
『サラダですが、ドレッシングのかけすぎには注意です。極力ノンオイルのものか、お酢と塩で食べるようにしてください。』
『夜もタンパク質を意識できているのは素晴らしいです! お肉や魚を選ぶときは、揚げ物を避けて「蒸す」「焼く」といったシンプルな調理法を選ぶと、無駄な脂質をカットできますよ。』
さらに、未知の攻略情報が上乗せされる。
『あとは、ダイエット中の環境変化で腸内環境が荒れやすいんです。納豆やキムチなどの「発酵食品」をプラスすると、代謝も上がってより効果的ですよ♪』
ーーダイエット道、奥が深すぎる。
食べなきゃいい、という単純な引き算のゲームじゃない。
栄養バランス、調理法、さらには体内の菌のバランスまで……。
これは想像以上に奥深い、超本格派のライフ・シミュレーションゲームだ。
「発酵食品……明日は納豆をパーティーに入れてみるか」
そう独り言を呟きながら、俺は鯖の身を一口噛み締めた。




