第29話 【悲報】1日目にして『ギブアップ』? 限界寸前の俺に授けられた救済措置
いつもと同じ時間に家を出たはずだった。
だが、現実は残酷。
一歩踏み出すたびに太ももが「拒否反応」を起こし、歩行速度が通常の3割まで低下していた。
階段の一段一段が、まるで高難易度アクションのように神経を削る。
ようやくオフィスに辿り着き、震える指でタイムカードを打刻した。
記録された時刻は、デッドラインのわずか一分前。遅刻という名の「即死トラップ」は間一髪で回避したが、背中には冷や汗がびっしりと張り付いている。
幸いにも、業務が始まれば脚の筋肉痛は鳴りを潜めていた。
デスクワークという「座りっぱなし」の状態が唯一の安全地帯だ。
そして、待ちに待った――はずの昼食。
デスクに並んだのは、自作の「おにぎり」と「ゆで卵」。
写真を送信。
ぽつりと独り言が漏れる。
「……味気ないな」
過去の俺なら、デスクの上にはコンビニのホットスナックや、濃厚なソースが絡んだパスタ、ビッグサイズのコーラを歴戦の召喚師さながらに大量展開していたはずだ。
それらに比べれば、今のラインナップはあまりにも彩りに欠ける「下級モンスター」のような心許なさ。
気休めに自販機で買ったトクホのコーラを喉に流し込む。
人工甘味料の刺激が舌を叩くが、腹の奥に広がる虚無感までは埋めてはくれない。
贅沢を言える立場じゃない。分かっている。
本格的な食事管理を始めて一日も経たずに音を上げるなんて、最高にダサい。
だが――
この先何百日も続く「遠征」だと考えれば、ただ我慢を重ねるだけの戦略は、明らかに悪手なのではないか。
俺は迷った末に、スマホを取り出した。
文面を打っては消し、また打ち直す。
数分の逡巡の末、意を決して「SOS」を送信した。
『少し、食事がきつくなってきました。卵とおにぎり以外で、何か食べていいものはありませんか……?』
情けない。だが、これが偽らざる今の本音だ。
返信は、またしても即座に届いた。
『ベースはおにぎりと卵ですが、汁物や野菜などは追加して全然大丈夫ですよ! インスタントの味噌汁や、サラダを足すと、満足感が全然違います』
画面の向こうで、みさきさんがこちらの消耗を見透かして微笑んでいる気がした。
『おやつが食べたくなったら、バナナやナッツもおすすめです。天然のエネルギー源として優秀ですからね♪』
――助かった。
その一言が、乾いた砂漠に降る雨のように俺の心に染み込んでいく。
禁欲だけが修行じゃない。適切な補給こそが、継戦能力を高めるのだ。
軍師が授けてくれた救済措置を胸に、俺はおにぎりの最後の一口を力強く噛み締めた。




