第28話 【勲章】衝撃のマイナス1.0kgと激痛の代償
翌朝、俺は自分の足に「石化の呪い」でもかけられたのではないかと本気で疑った。
「……あ、が……っ」
――重い。痛い。そして、動かない。
膝が笑う、なんてレベルじゃない。
俺の脚は、もはやリーダーである俺の命令を完全に無視し、不協和音を奏でる制御不能な野良パーティーと化していた。
壁や手すりに必死にしがみつき、ふらついた足取りで洗面所へ向かう。
そして、もはや日課となった体重計に、祈るような心地で乗った。
ピピッ。
無機質な電子音が、静かな朝の空気に響く。
「78.5kg」
「……うそだろ」
表示された数値を見て、俺は思わず二度見した。
昨日から一気にマイナス1.0kg。
水分量の変化かもしれない、ただの誤差かもしれない。理屈では分かっていても、今の俺にとってその数字は、スクワットという試練の果てに掴み取った最初の「実績」そのものだった。
嬉しい。けれど、死ぬほど痛い。
歓喜の情熱と、筋肉の悲鳴。相反する二つの感覚が俺の中で激しく共鳴し、奇妙な高揚感を生み出していく。
「よし……やるか」
震える膝を気合で叩き、俺はキッチンへと這い進んだ。
米を準備する傍ら、冷蔵庫から取り出したのは4つの卵。鍋に水を張り、そっと沈める。
茹で上がった卵を冷水にさらし、ぎこちない手付きで殻を剥く。
まだ温かいそれを口に運び、飲み込もうとしたところで――ふと思い出した。
……あ、報告しなきゃ。
食べかけの卵と、歪な形のおにぎりの写真を撮って送信する。
どうやら俺の日常には、新たなる「ミッション」追加されたらしい。
スマホを置く間もなく、すぐに既読がついた。
『いいですね! 今日からゆで卵作戦、取り入れて頑張りましょう♪』
――早い。
レスポンスの良さに、まるでログインボーナスを受け取った時のような高揚感が胸を掠める。
一人でおにぎりをかき込んでいた日々とは違い、誰かと同じ戦場に立っているという感覚が確かにあった。
――パーティーを組んでいる。
そんな実感が、腹の底からじんわりと熱を帯びて湧いてくる。
身支度を整え、玄関の扉を開ける。
いつもの見慣れた出勤風景。
……のはずなのに。階段を一歩下りるたびに脚へ走る激痛が、現実を冷酷に突きつけてくる。
1キロの軽量化と、刻まれた筋肉痛を携えて。
俺は今日という名のクエストへ、フラフラになりながらも足を踏み出した。




