第27話 【不穏】黒歴史を賭けた私闘《バトル》と不敵な笑み
「……にしても」
俺はふと気になっていた疑問を口にした。
「なんでそんなにダイエットとか筋トレに詳しいんですか? もしかして、生まれた時からプロのトレーナーだった……とか?」
「なんですかその英才教育」
みさきさんは吹き出すように笑って、それから少しだけ懐かしむように目を細めた。
「私、学生時代は結構コンプレックスがあって。体型もそうですし、自分に自信もなくて」
「……え?」
思わず間抜けな声が出た。いや、だって。
目の前にいるのは、悩みなんてなさそうな「遠い世界の住人」だと思っていた。
そんな俺の反応がおかしかったのか、みさきさんは苦笑する。
「本当ですよ? だから色んなダイエット試しました。極端なのもいっぱいやりました。そのたびに失敗して……」
「意外すぎる……」
「その頃にちゃんと勉強したんです。食事も、筋トレも。だから今、昔の私みたいに『変わりたい』って思ってる人を見ると……つい熱が入っちゃうんですよね」
彼女は照れたように言う。
完璧に見えた女神の、意外すぎる過去。
……まあ、仮に少しふくよかだったとしても、学生時代から絶対可愛かっただろうけど。
「ホントですか? ちょっと信じられないんですが」
「なんで疑うんですか」
むっと頬を膨らませる。
その反応が妙に可愛くて、俺は少しだけ調子に乗った。
「じゃあ、もし俺がちゃんと目標達成できたら……学生時代の写真、見せてくださいよ」
「えっ!?」
みさきさんの肩が跳ねた。
「だ、ダメです! 絶対ダメ!」
両手で大きくバツを作り、ぶんぶん首を振る。営業スマイルが完全に消えている。
その全力の拒絶が、逆に俺の探求心をくすぐった。
「そこをなんとか。俺、たぶんモチベめちゃくちゃ上がります」
「そんな理由で人の黒歴史を報酬にしないでください!」
「じゃあ後ろ姿だけでも」
「譲歩の仕方がおかしいです!」
ひとしきり攻防を繰り広げたあと、みさきさんは観念したように小さくため息をついた。
「……後ろ姿の、小さい写真なら」
「交渉成立ですね」
「だからまだ成立してませんって!」
ぷくっと頬を膨らませる姿に、俺は心の中でガッツポーズを決める。
そんな俺を見て、みさきさんは呆れたように笑った。
そして俺は糸で吊るされた操り人形のような足取りで《エンチャントジム》を後にした。
自動ドアを抜けた瞬間、夜風が火照った身体に突き刺さる。
「……あ、脚、終わった」
階段を降りようとした瞬間、『レッグエクステンション』という名の拷問器具に破壊された脚が、一歩ごとに悲鳴を上げた。
ふとジムの窓を見上げる。
すると、みさきさんがこちらに気づき、にっこり笑った。
その綺麗な唇が、声もなくこう動く。
――『明日の朝、楽しみですね?』
「……っ」
俺は反射的に視線を逸らした。
翌朝、ベッドから立ち上がろうとして絶叫する未来を、この時の俺はまだ知らない。




