第23話 【階段】ラスボスのHPは5万!? 鉄壁の要塞の攻略法とは
差し出したスマートフォン。
それはコンビニ弁当やおにぎりはもちろん、こっそり胃袋に収めたコンビニのホットスナックまで正確に記録された食料記録』
みさきさんは、画面に映し出されたここ数日間のコンビニ飯、おにぎり作戦の痕跡、そしてプロテイン道の歩みを、鋭い眼光で読み取っていく。
「健康診断は、いつですか?」
画面から視線を外さずに問いかける。
「えっと……二月です」
みさきさんは小さく頷き、静かな沈黙の後口を開いた。
「脂肪を一キロ落とすのに、必要なエネルギーはざっくり七千キロカロリーです」
シンプルで、あまりにも残酷な真理。
一キロという質量を削ぎ落とすために必要な代償の大きさに、俺の心は瞬時に崖っぷちへと追いやられる。
「八天さんの現在の体型なら、脂肪を七キロ前後落とせれば、水分の変動も含めて体重は大体十キロ減らせるはずです。つまり――」
みさきさんはスマホを操作する手を止め、俺を真っ直ぐに見据えた。
「あと五万キロカロリー分、今の生活からマイナスできれば、目標達成です」
「ご、五万……!!」
思わず息を呑む。
あまりのスケールの大きさに、脳が現実を直視することを拒むほどの絶望的な数値。
冴えない中年サラリーマンが単騎で挑むには、あまりにも巨大な軍勢。
だが、お通夜のような表情をした俺を見て、みさきさんが「ふふっ」と噴き出した。
「安心してください。健康診断まで、大体百五十日あります」
スマホを軽く指で叩きながら
「一日あたりにすると、必要なのは約三百五十キロカロリー。消費カロリーを摂取カロリーより、それだけ多くできればいいんです」
「350……?」
さっきの「五万」という数字に比べれば、拍子抜けするほど小さな数値だ。
「大体コンビニのおにぎり二個分を控えるか、軽いウォーキングを三十分。それくらいの積み重ねですよ。」
「――あ」
その瞬間、胸の奥で複雑に絡まっていた鎖が、パラパラと音を立てて解けていく。
鉄壁の大要塞に見えたそれは、実は一歩ずつ登れば誰でも頂上に辿り着ける「階段」なのかもしれない。
「無理な数字じゃ、ないかも……」
「そうです」
みさきさんは、静かに頷いた。
――彼女は多分、優しいだけの聖女じゃない。
俺は背筋を正し、自分の運命を預けることを改めて心に決める。
凄腕トレーナーによる、本当の「変革」がここから始まるのだと確信しながら。




