表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/26

第22話 【告白】 啖呵を切った俺に、みさきさんが授ける勝利の極意

スマホが震えた。


社内チャットの通知。その通知を開いた瞬間、俺は固まった。


全社員が閲覧できる「チャット」に、京右介がこんな投稿をしていた。


【速報】八天さん、次の健診までに-10kgを宣言! 応援してあげましょう


すでにリアクションが十件以上ついている。


「頑張れ」「見てるぞ」「有言実行期待」……好意的なコメントに紛れて、京右介のリプライだけが一つ、明らかに温度が違った。


三日で心折れそうな気がするのは俺だけ?w


笑いの絵文字が、やけに白々しい。


悪意はない、という顔をしながら、逃げ場だけは確実に塞いでくる。こういうやり方が、コイツの一番タチが悪いところだ。


オフィス全体が、微かににざわついている。


俺の無謀な宣言が、社内で格好のネタになっているのは――もう間違いなく、コイツのせいだ。


京右介への怒りの炎は胸の奥で燻り続けていたが、俺はあえて視線を逸らした。


――それより、今は。


この燻る感情を、冷たい鉄の塊へとぶつけたかった。


仕事を終え、エンチャントジムへ。


ロッカーでウェアに着替える一連の動作が、今日はまるで決戦へと赴く前の神聖な儀式のように感じられた。


さっきまでのオフィスの喧騒が、遠い異国の出来事のように霞んでいく。


ベンチで目を瞑り、精神を集中させていると。


「こんにちは! 今日も頑張りましょう」


弾けるような声とともに、みさきさんが現れた。


変わらない笑顔。変わらない安心感。


「は、はは……」


不意打ちは、ずるい。

陰キャ特有の歯切れの悪い苦笑いが漏れる。


「どうしたんですか? 元気ないですよ?」


そう言って、みさきさんは少し身を乗り出し、俺の顔を覗き込んできた。


――ち、近い。


視線が合った瞬間、トレーニングへの熱が、一気に緊張へと姿を変える。


トレーニング前に筋肉じゃなくて心臓を追い込んでどうするんだ、俺は。


一度深く息を吸い、暴れる鼓動を無理やり鎮めてから、俺は正直に白状した。


「実は……職場の嫌な奴に、ジムに通ってることをバカにされまして。」


みさきさんは口を挟まず、ただまっすぐこちらを見ている。


「それで、ついカッとなって……次の健康診断までに、十キロ痩せるって啖呵を切っちゃったんです。言ったはいいけど、正直、どうしたものかと……」


言い終えた瞬間。


「えっ」


みさきさんが、ぱっと目を見開いた。


「それって……八天さんの話、ですよね?」


その瞳の奥に、鋭い光が宿る。


「え、あ、はい……俺の話ですけど……?」


戸惑う俺をよそに、みさきさんは一歩前に踏み出し、小さく拳を握った。


「やってやりましょう、ダイエット!」


彼女の言葉は、芯まで赤く焼けた刀身のような熱を帯びていた。


「最後は、キモチです」

「き、気持ち……?」

「はい」


にっこりと、でもその目は真剣そのものだった。


「それに、目標を周りに公言するのって、すごく良いことなんですよ。逃げ場がなくなる分、自分に責任が生まれますから」


逃げ場がない。

その言葉が、さっきの宣言と重なる。


「八天さんはもう“始めた人”じゃなくて、“やると決めた人”です」


その一言が、胸の奥深くに突き刺さる。

これまで何度も、同じ場所で足踏みを繰り返してきた。


変わりたいと願っては三日で挫折する、そんなループを繰り返してきた自分。


けれど今は、

最強の『加護エンチャント』を付与してくれる天使がいる。そんな確信が、折れそうな心を支えてくれる。


(ああ……勇気を出して、ジムに来てよかった)


そんなことをしみじみと感じていると、みさきさんのトーンがふっと戻る。


「……とはいえ、ですよ」


彼女の瞳から慈愛が消え、冷徹な分析官アナライザーの光が混じる。


「体重を落とすには、消費カロリーよりも摂取カロリーを少なくしなければなりません。」


逃げ場を塞ぐような完璧な笑顔。


「スマホ、ちょっといいですか? 最近食べたもの、写真で見せてもらえます?」


――この人は、ただ夢を見せるだけの人じゃない。


現実を確実に前へ進める力を持った、凄腕のトレーナーなのでは…。


そんな予感とともに、俺は観念してスマホを彼女へと差し出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ