第21話 【宣言】合理性の刃を叩き折れ! 俺が放った絶対遵守(ギアス)!
木場課長に声をかけられてから、ほどなくして――。
「よぉ」
耳に刺さるような声が、背後から飛んできた。
聞き覚えのある響きに、俺の背筋は条件反射のように硬直する。
振り向くまでもない。
そこに立っているのは、案の定――京右介。
「おはよう」とか「お疲れ」とか。
そういうんじゃないんだな……。
「なんだ、体しんどそうじゃねぇか。大丈夫か?」
思いがけない気遣いのようなセリフに、一瞬だけ警戒が緩む。
「あぁ。ただの筋肉痛だから」
もしかして――心配してくれてる?
そんな淡い希望を抱いたのも束の間。
「どうせ三日坊主で終わるんだろ。今のうちにクーリングオフして、コンビニスイーツでも買ってこい。お前の代わりなんて、掃いて捨てるほどいるんだからよ」
……安定の毒舌。
一瞬でも期待した俺が、バカだった。
言葉のナイフをいくつポケットに隠し持ってやがるんだコイツは。
心のざわつきを抑え、俺はできるだけ平静を装って返す。
「……まぁ、入会金も払っちまったしな。やれるだけやるよ。ある意味、背水の陣なんだ」
「ハッ、違いねぇな。だが本当に金と時間が惜しいなら、今のうちに逃げとけ。それが“合理的な判断”ってやつだろ?」
――合理的。
その言葉が、妙に引っかかる。
挑戦して失敗する前に、やめる。
傷つく前に、距離を取る。
年を重ねるごとに、そうやってリスクを回避することが“大人の正解”だと信じるようになっていた。
だが今。
目の前でその「合理性」という名の刃を突きつけられ、俺ははっきりと首を横に振った。
「……じゃあ、ひとつ言っておくけど」
昼休み前の雑談がピタリと止まり、オフィスにいくつもの視線が集まる。
止めるなら今だ。けれど、もう引けない。
「次の健康診断までに、俺――70キロ切ってみせるから」
京右介の眉が、わずかにピクリと動いた。
「……へぇ、言ったな。証人はたくさんいるぞ?」
ニヤつく京右介。
笑いを堪える同僚、冷ややかな視線、興味本位の囁き。
四面楚歌、それでもいい。
俺は真っ直ぐに奴を見据えて言い放った。
「言った。だから見てろよ」
胸の奥が熱くなり、膝が震える。
だが、それは恐怖のせいじゃない。
数日前、奴の顎へと右ストレートを叩き込んだのはあくまで妄想。
だが今、この宣言は紛れもない“現実“だ。




