表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
20/23

第20話 【洗礼】 悶絶する俺に課長が授けたとある教え

――そして、翌朝。


ピピピ! ピピピ!


耳障りなアラームが鼓膜を直撃する。


反射的にスマホへ手を伸ばそうとした、その瞬間――。


「っ……!?」


全身に電撃が走る。

あらゆる部位の筋肉が一斉に、怒号とも悲鳴ともつかない声を上げる。


肩、胸、腕……どこをどう動かしても、痛い。


「ぐぅっ……これはまさかっ……!?」


初心者が最初に受ける洗礼、筋肉痛。


ぎこちない動きで、普段の三倍の時間をかけて布団から這い出す。

ペンギンのような歩き方で体重計を引っ張り出し、恐る恐るその上に乗った。


ピピッ。

――79.7kg。


昨日より、さらに0.3kg減っていた。


「おお……。これはもしや、“筋トレ”の成果か……?」


痛みの中に、確かな達成感が混じる。


痛みと戦いながらおにぎりを握り、プロテインを用意していざ出社。


始業とともに、筋肉痛との戦いが始まった。


「ぐっ……! い、いっててて……!」


コピー用紙を取る。マウスを動かす。電話を取る。


日常の動作ひとつひとつが、今の俺には、高難易度のクエストと化していた。


そして昼前、事件が起きる。


遠くのデスクにある書類を取ろうと、腕を伸ばした瞬間――。


ビキィィッ!!!


「い、いってててててて!!!」


あまりの激痛に胸を押さえて悶絶する俺に、静かな声が降ってくる。


「八天くん、大丈夫!?」


顔を上げると、木場課長がショートヘアの隙間からこちらを覗き込んでいた。


「あ、はい……すみません。ただの、筋肉痛で。……イテテ……」


「ふふ。早速トレーニング、頑張ってるみたいね。いいじゃない、“ノーペイン・ノーゲイン”よ」


「ノーペイン……ノーゲイン?」


「“痛みなくして得るものなし”ってこと。何かを手に入れようとする時、必ずちょっとは痛い思いをするものよ」


この会社で唯一の女性管理職として男社会を生き抜いてきた彼女の言葉には、確かな説得力があった。


とはいえ、俺はただ必死に鉄の棒を押し上げ、結果的にこの“痛み”を抱えているだけ。


でも。

この痛み、嫌じゃない。


「……ノーペイン・ノーゲイン、か」


まだ何も変わっちゃいない。

でも、変わろうとしてる自分が、確かにここにいる。


脳内でその言葉を反芻しながら、俺は再びキーボードに手を伸ばした。


相変わらず、指を動かすだけで腕が悲鳴を上げている。

だが不思議と、その痛みの中に心地よさも共存している気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ