第19話 【突破】 天使の導きで、プロテインの迷宮を突破せよ
呼吸もようやく落ち着き、着替えてジムを後にしようとしたその時――。
ふと、昨夜の疑問が脳裏をよぎった。
「そういえば、みさきさん。プロテインって、どれを買えばいいんですかね?種類が多すぎて……どれが正解なのかさっぱりで」
「そうですよね。最初はみんな迷うんです」
彼女は俺の苦悩を見透かしたように、うんうんと深く頷いた。
「ちょっと前までは牛乳から作られるホエイプロテインをおすすめしてたんですけど、すごく値上がりしちゃって。今だったら大豆から作られるソイプロテインや、ソイとホエイのハイブリッド型がおすすめです。」
まさか米に続いて、プロテインにまでも値上げの波が押し寄せてきているとは…。
「なるほど……。じゃあ、まずはそれを探してみます。いつ飲めばいいとかあるんですかね? 」
「いい質問ですね」
みさきさんは、嬉しそうに笑う。
「基本的には“いつでもOK”なんです。タイミングにこだわるより、まずは『毎日続けること』の方が大事」
「でも、強いておすすめを挙げるなら……朝食の代わりや、おやつの代わりにすることですね」
「朝とおやつ、ですか」
俺は心のメモ帳に言葉を刻み込む。
「忙しい朝に飲めば手軽に栄養補給できますし、甘いものが欲しくなった時に飲むのも効果的です。」
「今の八天さんなら、“続けられること”が一番大事です。難しく考えず、コスパよく美味しく飲めるものから始めましょう」
その言葉に、不思議な安心感を覚えた。
これまで何度も「筋トレ」という単語は耳にしてきたのに、一度も行動には移せなかった。
でも、みさきさんの言葉を聞いていると、俺の前に立ちはだかっていた“見えない壁”が、パラパラと音を立てて崩れていく。
「ありがとうございます。……また、お願いします」
俺は深々と頭を下げジムを後にしたが、ジムの入り口を離れてわずか数メートル。
それまでアドレナリンで誤魔化していた身体が、急に現実を突きつけてきた。
「……あかん、体が重い……」
フラフラと千鳥足になりながら帰路を進む。
今すぐベッドにダイブしたい――いや、むしろこのまま歩きながら寝落ちしてしまっても不思議じゃない。
それでも、最低限の儀式だけはこなさねばと、重い体に鞭打ち、シャワーを浴びる。
普段ならこのあと、ラノベを読みながらYouTubeをダラ見して、眠気を待つのが俺のルーティーン。
だが今夜は違う。
みさきさん推奨のあの「プロテイン」を探さなければ。
チョコか、バニラか、それとも抹茶か。通販サイトで比較して、お気に入りに追加して……そのはずだったが。
床に倒れ込んだ瞬間、俺の意識はプツンと途切れてしまった。




