第2話 【邂逅】戦いの果て、ジムで出会った天使
俺はジムの駐車場に車を滑り込ませると、ゾンビの如くよろよろとドアに向かった。
俺は自身の肛門括約筋を躍動させ、決壊という名の破滅を阻止することに全神経を集中。
「す、すいません……」
脂汗まみれでインターホンを押す。 しかし返事はない。
やめろ……!
その沈黙、今の俺には致命的がすぎるッ……!
「す、すすすすすすすすすすすすすいましぇぇぇん!!!」
ボタンにすがるようにして叫ぶ俺の姿は、滑稽を通り越し、狂気の領域に達していた。
だが、やはり反応はない。
裏切られた男の心に闇が宿り、覚醒しそうになる。
だがその時、たたたっと奥から小気味よい足音が聞こえ、ドアが開いた。
「お待たせしました〜!」
現れたのは、とびきり可愛いショートカットの女性。
胸元の名札には『パーソナルトレーナー みさき』の文字。
目の前に現れた彼女の圧倒的な可愛さが、俺の“腹時計”をフリーズさせる。
「入会ですか?」
無邪気すぎる問いかけが、次元の壁をぶち破って突き刺さる。
俺は大事な何かが溢れないように細心の注意を払いつつ、情けない声を絞り出した。
「ト、トトトイレをぉ……か、貸していただけな、ないでしょうかぁぁ……」
情けない声で懇願する俺。
ゾンビのような表情。小刻みに震える足。新種の合成獣のようなあられもない姿。
理想の出会いランキングぶっちぎりの最下位ムーブ。
だが、彼女は優しく微笑んで言った。
「お手洗いですね、どうぞ〜」
──女神か。
人のやさしさに涙しつつ、俺は光速でトイレへ駆け込み、便器に向かって【渾身の一撃】を放つ。
──決まった。
重かった身体が嘘のように軽くなり、意気揚々と戻ると、彼女は俺の顔を見て笑った。
「大変でしたね。最初見たとき、顔が紫と黄色で……えっと、混ぜたら危険って感じでした!」
俺は心の中でツッコむ。
(俺、お風呂の洗剤かよ)
でも、そんな俺に屈託のない笑顔を向けてくれた彼女に、俺の心は完全に撃ち抜かれていた。
(認めざるを得ない。魅力的なヒロインは問答無用の絶対正義だ!)
確信した俺は、無意識に右手の拳を握りしめる。
「どうかされました?」
ちょこんと首をかしげるその仕草すら、反則級に可愛い。
「あ、いや、蚊が飛んでたんで……捕まえておきました」
「えっ!? すごいですね!」
両手を顔の前でパッと広げるリアクション。
ちょっと古風だけど、とにかく可愛い。
時計を見ると、始業5分前。遅刻確定。
だが、そんなことはどうでもよかった。
「本当に、ありがとうございました!」
深く頭を下げ、俺はジムをあとにした。




