第17話【成長】疲労の先に見えた、消えないレベルアップの火
インターバルを挟み、俺は再びバーベルへと手を伸ばした。
呼吸を整え二度、三度と、鋼鉄に挑む。
「いち、に、さんっ……はい、ラストもう一回! ――ナイスです!」
「っしゃあ……!」
みさきさんの鼓舞に背中を押され、最終セットまで10回×3セット、すべてをやりきった。
腕は鉛のように重く、胸のあたりが焼けるように熱い。
だが、その痛みとともに、えもいわれぬ達成感が俺を包み込む。
「いいですね、八天さん。次回のトレーニングでは、少し重量を上げて挑戦してみましょうか」
「わ、わかりました!」
……“重量を上げる”。
その言葉が、胸に響く。
思い返せば――子どもの頃は、日々が“レベルアップ”の連続だった。
鉄棒で初めて逆上がりができた日。
自転車の補助輪を外せた日。
ゲームで強大なボスを倒した夜。
だけど、大人になるにつれて。
できることは増えたはずなのに、純粋な“成長の実感”は、どこか遠のいていた。
だが今。
プレートすら付いていないバーベルで、3セットをやり遂げたこの瞬間。
俺の胸には確かに、「まだ俺はいける」という気持ちが生まれていた。
――《EXP +100》
そんなポップアップが、心の中に浮かんだ気がする。
もし次回、もう少し重いバーベルを持ち上げられたなら。
それは紛れもなく、現実世界での俺自身のレベルアップだ。
初めてのトレーニングで、これほど世界の色が変わって見えるなんて――
俺は筋トレの力に、心底驚いていた。
その後も、トレーニングは続く。
ダンベルを使った肩のトレーニング、胸の上部を狙った《インクライン・ダンベルプレス》、そして腕の裏側を追い込む《リバース・ディップス》。
すべてのメニューを終えた時、俺の体は感じたことの無いような疲労感に包まれていた。
ジムのマットに崩れ落ち、荒い息を整える。
「初のトレーニング、どうでした?」
みさきさんの穏やかな声が、耳に届く。
息があがって、すぐには言葉が出てこない。
「……めちゃくちゃ、疲れました。でも……最高に良かったです」
それは決して、格好をつけたいとか、みさきさんに好かれたいとか、そんな打算的なセリフじゃない。
ただ――心の底から、そのまま溢れ出した本音だった。




