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「王都神殿の神官長……?」
ちょっと思いがけない人物の名前に、俺とセウェルスは一瞬顔を見合わせた。
「どういうことかな?」
「実は、数百年前の聖女と剣聖がグウェルを封印したとき、この先グウェルが絶対復活しないように魔物の体の核でもある『魔石』を取り出してるんです。知らなかったですよね?」
いや、知ってたけど。
とはさすがに言えないから、俺たちは初めて聞いたふりをして「『魔石』、だと……?」なんて大袈裟に驚いてみせる。これは相当演技力が問われるな、うん。
それにしても、魔石のことはやっぱりステラも知っていたのだ。思った通りである。
「その魔石というのが、王都神殿で厳重に保管されているんですよ。このことは代々の神官長しか知らなくて、ずっと密かに語り継がれてきたんです。でも当代の神官長は、王都神殿にかつての権勢を取り戻したいという野望を抱いている人で、魔石を使ってグウェルを復活させることができれば神殿の復権も夢じゃない、と思いついたんですよ」
狙い通り魔石の在り処もすんなり判明し、よっしゃ! と心の中で叫びながらも、俺はステラの話に首を傾げる。
「グウェルの復活と王都神殿の復権とは、どうつながってくるんだ?」
「もしも魔物が復活して、聖女候補である私が『星の聖女』として覚醒すれば、人々はみんな私に縋りつくしかなくなるし、私を崇拝してくれますよね? そうなれば、私の後ろ盾である王都神殿もかつてのような権力を手に入れることができるのでは、と考えたんです」
「それは、神官長から直接聞いたのか?」
「いいえ」
あっさりと首を横に振るステラの顔は、どう見ても得意げである。
いったいどういうこと? と俺たちが聞くより早く、ステラは堂々と言い放った。
「実はですね、信じられないかもしれませんが、私は異世界から来た転生者なんですよ」
「……は?」
「私はもともといた世界で、この世界のことを小説で読んだんです。『星降る夜のフェアリーテイル』、通称『ほしよる』っていう小説なんですけど。私がヒロインで、アンディ殿下がヒーローなんですけど。ふふ」
やめろ。そんなねっとりとした視線で俺を見るな。
「原作の小説では本当にグウェルが復活してしまって、それをきっかけに私とアンディ殿下がそれぞれ聖女と剣聖として覚醒するんです。それから力を合わせてもう一度グウェルを封印し、ハッピーエンドで一旦本編は終わるんですけど」
「……本編?」
「本編完結後に外伝が出版されて、そもそもなんでグウェルは復活したのか? って話になるんです。外伝は、婚約した私とアンディ殿下がグウェル復活の黒幕を暴くっていうストーリーなんですよ。最終的にはグウェル封印の秘密と魔石の存在が明かされて、神官長が黒幕だったと判明し、断罪されてめでたしめでたし、で終わります」
そこはかとないドヤ顔を決めるステラを前にして、俺は不覚にも心から驚いていた。
あの話に、外伝があったのか……!!!
ファンである姉ちゃんが何も言っていなかったところを見ると、外伝の出版は俺がこの世界に来たあとのことなのだろう。
しかも、ステラが外伝まで押さえていたガチ勢だったとは……!
理由はどうあれ心底驚く俺に対し、ステラはどこか媚びを含んだ目をして言い募る。
「だから私、神官長がグウェルの復活を目論んでいることは知っていました。でも本当に、ただ知っていただけなんです。信じてください」
「君自身は、グウェルを復活させようなんて考えたこともなかったと?」
「もちろんです!」
「ではなぜ、神官長の企てについて、今の今まで黙っていたのかな?」
俺が冷ややかにそう言うと、ステラは「え……?」と眉をひそめる。
「君の話は俄かには信じ難いが、ひとまず事実だと仮定しよう。ただそうなると、君は神官長の企てについて最初から知っていて、でもずっと黙っていたということになるよね? どうしてなのかな?」
「え? そ、それは……」
「もしも神官長がグウェルの封印を解いてしまったら、この国の民は復活した魔物の群れに襲われ蹂躙されて、甚大な被害を受けることになる。国家存亡の危機が訪れることになっても構わないと、君は思っていたのかな?」
「ち、違います! いずれ私が『星の聖女』として覚醒すれば、グウェルを再び封印できると――」
「今の時点で、君が覚醒するという保証はどこにもないと思うんだけど?」
「でも原作では、私が覚醒してこの国の危機を救うんです! 私の覚醒は、確定事項なんです!」
「だとしても、だ。陛下や国の上層部は転生だの原作だのと言われたところで信じてはくれないだろうし、君が神官長の企てを知っていながら、ずっと黙っていたこと自体を重く受け止めると思う。だって、君が知っていることをすぐに話してくれていたら、早々に神官長を取り調べて罪に問うことができたわけだし、そうすれば魔物の復活だって確実に阻止できるんだからね」
「それは、そうですけど……」
「つまり、知っていたのに何もせず放置していたということは、君も神官長と同罪ということになるんだよ?」
「そんな……!」
信じられないという顔をしたステラは、瞬時に声を荒げた。
「そ、そんなのおかしいです! 黙っていただけで、神官長と同罪なんて!」
「じゃあ、どうして黙っていたの? さっさと俺たちに話してくれていたら、こんなことにはならなかったはずなのに」
「それは……!」
「あえて何も言わずに黙っていたということは、君も魔物の復活を願っていたからだろう? 魔物の復活は君にとっても、何かしらのメリットがあったんじゃないのか?」
俺は素知らぬ顔で、ステラの急所を突いた。
これまでの『影』の監視報告を鑑みれば、ステラが筋書きをもとに戻したくて「いざとなったら魔石を使うしかない」と考えていただろうことは、想像に難くない。
図星を指されたステラはさっと表情を強張らせ、次の瞬間、一気にまくし立てる。
「だ、だって、何もかも原作と違いすぎるんだもの! 本当なら私とアンディ殿下が結ばれるはずなのに、恋に落ちるどころか全然距離が縮まらないし! でも魔物が復活すれば私とアンディ殿下が結ばれるチャンスだし、あの女もさっさと死ぬだろうから一石二鳥だと思ったのよ!」
「……あの女って、リーチェのことか……? 俺のリーチェが、死ねばいいと……?」
「そうよ! 何よ、リーチェ、リーチェって! あなたに愛されるべきなのは、この私なのよ! それなのに、なんで冷めた関係のはずの悪役令嬢を溺愛しちゃってるのよ! こんなのおかしいでしょう!? だから話の筋書きをもとに戻すためにも、グウェルの復活が必要だと思ったのよ!」
「……なるほどな」
冷めた口調で言い返すと、興奮した様子のステラがはたと我に返る。
「え……? で、殿下……?」
「やっぱり君も、神官長と同罪みたいだね」
「は? なんで――!?」
「だって、君もグウェルを復活させるべきだと思っていたのだろう? まだ聖女候補でしかないくせに、いずれ自分が覚醒して魔物を封印できると言い切るなんて、身の程知らずもいいところだよ。グウェル復活を企て、この国を恐怖と混乱に陥れようとしていた神官長の悪意を黙認したということは、国家を揺るがす大罪に君も関与していたとみなされて当然だよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなの嘘でしょ!? 私はこの物語のヒロインなのよ! 私を断罪しちゃったらどうなるか――」
「別に、どうもならないよ。だってここは、小説の中の世界じゃない。俺たちにとっては、まさしくここが現実の世界なんだから」
とどめを刺すように言い放つと、ステラは無言で目を見開き、そのまま床に崩れ落ちたのだった。
次話で完結です。
今日の午後には投稿します……!




